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塾講師ママ中学受験サポート国語-合格だけでいいんですか-

◆〈第2話〉





■ 中学受験・塾物語 《 第2話 》 




生徒達が、本命校の入試を受けている間、私は教室にいた。
昨日終電で帰宅し、朝応援に来るのに始発だったので、ほとんど眠っていないのだが、横になる気持ちにもなれないまま、コーヒーを買って塾に入り、自分の事務机ではなく、教室の生徒の席が全部見えるいちばん後ろの席に座った。

書かないといけない書類など仕事はいくらでもあるのだが、手に付かない。
何とはなしに、クラスネットワークを読み直してみた。
クラスネットワークというのは、講師が書く授業報告書のようなもの。
単元などの他にそのクラスの一人ずつの名前が書いてある欄がある。
小テストの結果や授業への姿勢を◎とか△とかで記録してある。
あの子達が入学してきた4年生から個別に読み進むと、その子達の成長の様子が手にとるようにわかる。
小4、小5と読み進めていくと、次々にいろんなエピソードも思い出された。
 
『5月○日  タケシ・・・×→◎ 忘れ物した。宿題も未完成。先週注意して涙目になったので、今度はがんばろうなと言ったのにも関わらず、今日もまた宿題忘れた。雷落とした!ただ、授業中はみんなに遅れまいと必死で集中し、挙手も多かった。自分なりにまずいと思ってはいるようだ。「こんなに授業でがんばれるんだから、家でも絶対できる。君は自分が思っているよりがんばれるヤツやと先生は思う!」と言って帰した。』

あはは。そうだった、そうだった。タケシ、しょっちゅう忘れ物してしかられてたなぁ。しまいには、「タケシ明日の分の宿題してるか?」ってヒロキが電話してくれているってお母さん言ってたっけ。

『6月○日  今日は全体的にミスが多かった。気が緩んでいるようなので去年の受験生たちの話をした。こういう話をした後、びしっとなるところがこのクラスはいい。目が変わる。来週来るとき、この目であってほしい。』

『6月○日 先週最後に誉めて帰したが、失敗だったかも。誉めたら、「これでいいんだ」と思ってそれ以上やってこない。叱ったほうががんばるのか?と聞いたら、みんなうなずいた。・・・じゃあ叱るぞ!と言ったのだが、それもうなずいた。笑』

『9月○日 ヒロキとタケシ、すっかり習った内容のことを忘れている。ヤバイ。きれいさっぱり忘れすぎていてどこから手を打てばいいのやら・・・。土曜日呼び出し。しばらく特訓。』

『10月○日  ダイキ・・・「先生、ぼくもう辞めたい」と言ってきた。国語が難しい、成績があがらんからという。 授業後話をしようと言うと素直に教室に残った。ダイキの入塾してきたときのテストを見せた。算数95点。国語7点。本人には言ってなかったので驚いていた。』
「このときと比べても、自分の力が上がっていないと思うか?  そんなことないやろ。 成績が上がらないことがくやしい、いやや~と思うことができてるってことは、自分では成績上がるはずと思うぐらいがんばれているからやろ?力がついてきたから、くやしいと思うんやで。 
でも、クラス見わたして、自分よりがんばっているなぁと思う子の名前言ってみ。  
その子らよりがんばったと言えるぐらいがんばろ。
もう少しやってみるまえに辞めてしまっていいんか?
その代わりな、算数はダイキを目指して、ダイキみたいに解けるようになりたいって思っている子もいっぱいいるよ。
それに、先生は、ここのところダイキよくがんばっているなぁ~、もう少していねいに問題読めばテストも取れるのになぁと思っているよ。」
『ダイキを帰した後、お母さんに報告の電話を入れたら、「笑顔で帰ってきて、今机に向かっています」とのこと。単純なヤツめ~。かわいいぞ。』

うん。そうだった。ダイキは塾辞めるって言ったことがあった。
入試間際の彼らのがんばりの印象が強かったので最近は自分たちも、この子達はもともとがんばっていた子のように思っていたが、4年生5年生のクラスネットワークには、いろんな講師が「雷」という字を書いている。
これは、やさしめの注意で改善できていないので次のときに叱り方をレベルアップさせたということ。
怒鳴ったり、一人だけ呼び出して厳重注意したときに使う言葉だ。理科の先生の字で「あまりに幼稚なミス連発。暴れた!」とも。叱られて叱られて、それでも休まずやってきて、この日を迎えたんだなぁ。

トモのお母さんは、反抗期で口応えするようになったトモに、「じゃあ塾辞めさせるからね!」って言えば、土下座して「すみませんでした。許してください。」とトモが謝るからまるで黄門様の印籠ですとおっしゃっていたっけ。
その塾も、あの子らにとってはもうあと少しで卒業かぁ・・・。

神様がいるなら、どうかあの仲良し5人を同じ中学に合格させてやってください。それに見合う努力をしてきたと思います。
算数の先生は、「もし、オレの腕一本折ったら、おまえら合格するっていうのならな、やるよ!でも、そんなことはだれも言うてくれんからな、代わりにオレが知っている算数のこと全部教えたるから、覚えてくれ!」と言っていた。
結果が出たときに、「もう少し私達が何かしてやっていたら、合格したんじゃないだろうか」とは思いたくない。
だから、親御さんと本人が望んでいれば終電まで質問につきあったし、少し油断しているように見えたときには、授業中泣きながら、過去に不合格になった生徒のくやしさを語ったりもした。落ち込んでどうしても塾に行くのがつらいと泣いた女の子を家まで迎えに言って励ましたこともあった。

合宿中には、24時間生徒のことを考えることに集中できた。
一睡もせずに、テキストのチェックをして、アドバイスを書き込んでいる先生もいる。無理にがんばりすぎる子には強制的に休むよう説得し、眠れるまで布団のそばについていた先生もいる。
夜中、一人ひとり無邪気な寝顔を確認しながら室温のチェックをして、蹴った布団をかけなおしてまわったりも。
息抜きタイムも、思い切って息抜かないと意味がない!と変装して生徒を爆笑させてた先生もいた。
みんな、生徒のことが大好きだ。だからこそ、厳しくもなれた。心の底から誉めることもできた。

今は、待つしかできない。胃が痛い・・・。
今ごろ算数を解いているころだ。計算ミスするんじゃないよ・・・。


ほとんどの生徒が今日の試験が本命校なのだが、昨日までにいくつかの結果が出ている。

まず、安全圏を受験して今日へのステップにしたかったタケシとヒロキのK中、二人とも合格だ。
当然といえば当然で、どちらかというと胸をなでおろした感じだが、二人ともすごくうれしそうに報告に来た。
生まれて初めて手にした合格通知だ。
「合格通知」は、いわば自分を絶対肯定してくれた証書のように感じるものだ。
それに、合格通知には偏差値など書いていない。
どこの中学であろうと「合格」の重みは生徒からしたら同じもの。
一つひとつ大切な合格だ。
私達も、心から「おめでとう!よくやったね!」と言う。

タマのT中。挑戦校だ。
けっこう遠いので受験するには6時台の電車に乗らなくちゃいけない。朝が苦手なタマは大丈夫だったんだろうか・・・と思っていたら、なんのことはない。近くのホテルに前日泊まったそうだ。ご両親が苦笑いしつつ教えてくれたが、本人にとってホテルの雰囲気は合宿のときを思い出して気合が入ってよかったとのことだった。

結果は、・・・数点足らずに残念ながら不合格だった。
彼の1点上の得点の生徒には追加合格が来たそうだから、本当に惜しかった。
どう励まそうかと悩みながらタマを迎えたが、本人は私達の心配をよそにけろっとやってきた。

そして、「社会の問題、めっちゃ手ごたえあった。面白かった~。3問ぐらいどうしてもわからない問題があってん。くやしいわぁ。」
やや興奮してそう言った。
日本一社会の問題が難しいと言われているT中のテストに、そこそこやりあえたということに満足したという。
私には、タマの目がキラキラして見えた。
おそるおそる他教科についても尋ねた。

「朝、緊張してたし算数いくつか計算ミスしてしまったと思う。家で解いたら答えが変わったのがいくつかあったし・・・。国語はいつもよりはできたと思うけど、もう少し時間が欲しかった。理科はできた。面白かった。・・・結果は自分でも実力出し切ったとまでは思えへんから、見たとき、やっぱりなと思って納得した。本命のときは算数実力出し切らなあかんと思うから、計算しまくるわ。」

今まで、模擬テストで上位の彼は、そう言えば1位を取った生徒に対しても「次は絶対勝つぞ!」と言うよりも、「あいつがんばってたもんなぁ。」と認めるタイプだった。
彼らしいと言えば彼らしい反応なのかもしれないが、器が大きいというか、なんというか・・・私自身が彼に負けたようなそんな気持ちになった。

N中を受けたのは、この5人の中では3人。タマ・トモ・ダイキ。
ダイキは、「自信ある。算数は満点かもしれへん。」と、テスト終了後そのまま塾にやってきて、鼻をふくらませてそう言った。
イヤな予感がする・・・算数の講師と目が合う。同じことを思ったようだ。
彼がこういうことを言うときは、ひっかけ問題にひっかかりまくっているときだ。
事実、算数の先生が彼の問題用紙に書き込まれた答えをチェックしていけば、次々とまちがいを発見。
みるみるダイキの表情が曇っていった。
少し遅れて、タマとトモも塾にやってきた。
タマは「T中よりはできた。」と眠そうに言った。
トモは、顔面蒼白。「どんな問題が出たか全く覚えていない・・・」と小さな声で言う。目が泳いでいる・・・。

え?!トモは、いつものトモでテストを受けてくれれば、大丈夫なところなのに・・・。

結果は、タマ、 合 格。
    ダイキ、不合格。
    トモ、 不合格。
ダイキは、予測していたよくない部分が的中してしまった。きつくお灸をすえて、本命校まで厳しく問題に取り組むように話をした。

ご両親は、「本命校の受験ためにも、長い目で見たこの子の人生のためにも、自分への甘さがこういうことになるってわからせてくれてよかったんです。
ここで合格したら自意識過剰になるところだったわ。」とおっしゃった。
「お兄ちゃんは、いっしょにSN中に通えるからいいやんって言ってますし、私達は特に落ち込んだ様子を本人には見せず、普通に過ごしてやります。私達が落ち込んだら、彼はもっと落ち込むから。
残念会に好きなもの夕食に作ってあげるぐらいはいいですよね?」
とおっしゃった。

ご両親がN中のことをずるずるとひきずることなく、次の入試へ目を向けさせるようにはからったおかげもあり、ダイキの気持ちの切り替えは早くできた方だとおもう。
次の日には「SN中がオレを呼んでいる気がする。おにぃもおるし~。」と言っていた。
心の底では複雑だっただろうけど、自分なりにそう考えて前向きに過去問に取り組む彼の背中は、昨日までとは少しちがうように見えた。

トモがこんなに緊張して自分を見失うとは・・・。
どうしてだろう。あんなによくがんばっていたのに、何が彼の努力と自信を揺るがしてしまったのだろう・・・。
SN中の入試の時間、とにかくみんなの顔が浮かんで消えた。

いろんなシュミレーションをする。
合格してくれればいいが、こういうときは最悪の状態を考えて今後の日程を組む。
成績でいけば、タケシとヒロキが危ない。
タケシのお母さんと電話で話をして調整する。

もしも、今日の結果が×の場合、タケシはコースが3種類あるS中の二次を受験することにした。
進学後も目標を持って学習できるのではないかと考えたからだ。真ん中のコースで二次なら偏差値62ぐらい。
SN中と大差もないし、もしも調子が悪くても標準コースなら二次で偏差値55ぐらいだ。
標準コースででも合格できれば、進学後上のコースを目指すチャンスがある。最終の懇談会のときと変更はなく、この方向でいくことになった。

次にヒロキのお母さんと相談だ。
最終の懇談会では、S中の二次とM中二次と二種類をあげていた。
ヒロキは、少人数のこの塾で先生にことあるごとに叱られて、よければ誉められて・・・の繰り返しで伸びてきたのだと思うから、そういうふうに先生がよく声をかけてくれる環境がいい、あまり競争というのを全面に押し出さずに中学高校ではのんびりと自分らしく勉強なり部活なり友達関係なり世界を広げていって欲しい・・・というご両親の希望をふまえると、高校から生徒数700名を越えるS中は候補からはずした方がいいだろうと考えた。
もし×の場合は、落ち着いた感じの生徒が多い印象であるM中二次を受けることになった。

二次試験について相談を希望されていた二人への電話が終わったら、また、ドキドキしてきた。
もうそろそろ試験が終わるなぁ・・・。

タマは、それほど心配しなくていいだろう。N中も合格しているし、試験を楽しむということができる子だ。
トモは緊張して2~3問まちがえても合格できるぐらいの位置にいる。
ダイキは、N中不合格の後、別人のような落ち着きがある。ここ2~3日を見ていると、「目が覚めた!」という感じがする。地に足がついているというか。
・・・でも、今のところ合格していないダイキとトモがビビッてしまったら怖いなぁ。

タケシとヒロキは合格通知を手にしていることで、こう言ってはなんだが調子に乗っている。
こういう流れで、どーんと自信を持って問題に取り組んで欲しい。
ビビリながら、計算ミスしているかも、しているかもと、いつもならすんなりと流れる問題にまで、戻って確認してみたり、注意深くなりすぎてスピードが落ちたりするよりも調子に乗っている子がよかったりするからなぁ。

他の校の応援を終えた先生が何人か、この教室に集まってきた。
今日は授業がない先生までいる。
みんな落ちつかないのだ。
集まって話をするのは、頭の中でどうどうめぐりになっていることを声に出すだけで、結局同じ内容だ。

「最初の頃はどうしようもなかったよな~?」
「叱ってばっかりだったな。」
「SNレベルを受験できるようになるとも思えないぐらいだったよな?」
「それが、本当によくがんばってここまで来たんだもんな。」
「性格もいいほんとにかわいい子達だよね?」
「きっと入学したら先生らにかわいがられるよね?」

・・・ひいき目に見まくっているのは自分たちでもわかっているのだが、いつの間にか「うちの生徒」は「うちの子」という感覚になっているのだ。
どこの塾の先生でもきっと同じ気持ちだろう。
たくさんの塾で、たくさんの講師がこんな気持ちでこの日を過ごしているんだろう。
そうすれば、少しでも彼らに合格の確率が上がるかというように、何度も何度も彼らはよくがんばっていたんだというエピソードを繰り返して話した。

SN中学の合格発表は、明日だ。




 
                                          ・・・・・つづく。
                                             →第3話を読む。

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※立夏が体験した多くの生徒のエピソードをもとに書いたものですが、
登場する人物名・学校名・成績推移・偏差値などはどれも架空のものです。
また登場する人物も複数の生徒のことを混ぜて書いてある場合もあります。
フィクションとしてお読みくださいね。


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