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塾講師ママ中学受験サポート国語-合格だけでいいんですか-

◇〈第6話〉





□ 中学受験・塾物語 《 第6話 》 



小5の1学期、ユリナは入学テストを受けに来た。
背の高い色白な子。髪が長くて、やさしそうな雰囲気を持つ。

テストの点数は、基準点には少しとどかず。
しかし、本人の受験したいという意志を尊重し、体験授業ということで1週間通塾させてみて、授業についていけそうかどうか、また本人の気持ちがどう変化するかということを見てから、再度保護者の方と相談するということになった。

まず、私の国語の授業。

体験授業を受ける生徒は、私はだいたい後ろの席に座ってもらう。
その方がクラス全体の雰囲気がよく見えるし、もしも彼女が失敗しても、他の子からの視線が集まることのないように。
見かけない生徒がいることで、他の生徒は少し先輩ぶってはりきっているようだ。
いつもよりぴしっと背筋を伸ばしている。

それが、かえってユリナを緊張させることになったようだ。
授業中の講師の声はかなり大きいのでそれにもユリナは驚いた様子。
ホワイトボードに書かれた四字熟語も学校では見たこともない。
かなりとまどっている。
だけど、彼女なりに真剣に授業を受けようとはしている。
周りの子がノートをとるのを見てあわててノートをとった。

新しい四字熟語を5つ、意味とともに説明し、
「10分時間をあげるから今覚えてしまいましょう。10分後に小テストをするよ。」
と指示した。前からこのクラスにいるメンバーは、もう慣れているし、四字熟語はどちらかというと好きな子が多いので、それぞれノートに書いたりぶつぶつ言ったり、自分でテストを作るようにしたりしながら各自勉強している。
机の間を歩きながら、ユリナのそばに行った。まだ、かなり緊張している。「ゆっくりでいいからね。みんなは何度もやっているから慣れているだけで、最初はうまくいかなかったんだよ。ノートに大きく書いたりしてごらん。」「はい。」私の目をしっかりと見て返事をするが、声は震えている。

10分後。
今習ったばかりの四字熟語5問のみのテストで、彼女は2つしか答えられなかった。緊張しすぎにしても、ちょっとこれでは授業についてくるのは厳しいなぁ・・・という印象だった。
彼女は泣き出してしまった。他の子に気づかれないように、声を出さないように歯をくいしばり、ぽろぽろと大粒の涙を流していた。

全員の小テストにはんこを押して回りながら、ユリナのところへ行って、「少しトイレとかで休憩してくる?顔ふいてくる?」と小声で聞いたが、「大丈夫です。」との返事。
その後の文章題の解説でも、彼女はすごく一生懸命ではあったが、正直なにがなにかわからないという状態だった。

国語の後の算数の授業をした講師も「一生懸命なのは認めるけど、・・・難しいと思う。問題はちんぷんかんぷんだな。学校で習った内容からちょっとひねられると手も足も出ない感じ。入塾は難しいな。」との返事だった。

まあ、こちらがたとえOKを出したところで、今日のあの様子ではまず本人辞退するだろう。涙まで流していたわけだし・・・。

体験授業の終了後、お迎えに来られたお母さんの顔を見た瞬間、ユリナの涙腺はまたゆるんだようだ。
はらはらと涙を流してお母さんにかけより、お母さんはちょっと驚いて、そして私に会釈をして帰られた。

次の日、ユリナのお宅に電話をさせてもらった。
するとおもいがけない返事が帰ってきた。
お母さんがおっしゃるには、本人はまずとてもカルチャーショックを受けたようで「びっくりして泣いちゃった。」と。
学校では習ったことのないすごく難しい勉強をみんながしていて、うらやましかった。私ももっと早く行きたかった。絶対がんばるから行かせて!お願い!と、とても興奮した様子で話したそうだ。

その話を聞いて、何も彼女の可能性を今の時点で否定して入塾をこばむことはないと。きついのを承知でがんばると言っているのだから、本人が根をあげるまでは来たらいいじゃないかと思った。
そのとき知ったのだが、ユリナは学校でダイキと同じクラスだった。
学校で一目置かれているダイキの算数。私もがんばって近づけるかもしれないと思ったというのもあるそうだ。

そうしてユリナは正式に入塾した。
彼女の授業態度は、本当に模範的で、どの講師もそのすばらしい姿勢を誉めた。背筋もピンと伸びて、一言も聞き逃さないという真剣なまなざし、ノートのとり方も丁寧。
しかし、記憶力と突拍子もない発想には苦労した。なかなか語句が覚えられない。
いつも小テストの結果は悪く、その度に涙を見せていた。
不思議な発想というのは、口で説明するのは難しいが・・・彼女はこんな質問をしてきたことがある。
「先生、ピラミッドってヒマラヤですか?」
「え?・・・ユリナ、ごめん。先生にはその質問の意味がわからんわ~。別物よ。」
「ちがうんですか~。」ちょっと恥ずかしいことを尋ねたと気づいたのか、次の疑問は私でなく社会の講師にしたようだ。
「先生、ピラミッドとヒマラヤのちがいを教えてください。似てますよね?」「・・・?似てますか?」社会の講師も彼女からの不可思議な質問にはたびたび頭を悩ませた。

授業に慣れたころに受けた模擬テストでは、偏差値40だった。
この時点では、正直返却されてきたテストを見て、よくこれだけ文字ばかりの問題数の中で自分のできる問題をきちんと見つけてよく○をもらったと思った。
体験入塾であんな状態だったので、もっと大勢の生徒達がすごい緊張感の中で受ける公開模擬テストの中では、ユリナはきっと頭真っ白でまともに問題を解くどころではないと思っていた。

個室で、テストの結果を開いて彼女と向かい合い、このテストから見られる彼女の成長、そしてこれからの大きな大きな課題を30分ほど話した。
偏差値は40で底辺に限りなく近いが、23点の国語のテストの答案を開いて、「よくやったね。今のユリナがとれる点数はとれたよ。これからのがんばり次第でここから上がっていくよ。」と誉めた。驚いたような顔をした後、ユリナはにこっととてもうれしそうに笑った。

スタートが遅い分最初は点数が伸びないけれど、今の授業態度で授業をしっかり受けていれば必ず力はついていくということと、ユリナは緊張すると弱くなるからテストではなかなか結果が出てこないし、結果につながるまでは時間がかかると思うけど、それでも力はつき続けていくからあきらめないこと。
それと、家での復習の仕方を具体的に説明した。
ユリナは、ときおりメモをとり、強くうなずいた。
「はい、じゃあいいよ。次の○○君に面談だよって声かけてきてくれる?」と終わりを告げると、「はい。」と席を立ち、ドアのところで「ありがとうございました。」とぺこりと頭を下げた。

ユリナには、今のやる気を持続して欲しいためにああ言ったものの、なかなか点数には結びつかないということは受験にはまちがいなく不利なわけで。
今の段階では志望校を選ぶという話すらできない。
受験勉強に少し遅れたスタートであるために経験値も少ない。
その上、緊張に弱い。緊張感のある授業に慣れていくことも必要だろう。
私の授業も時期的にこれから6年生と同じぐらいの緊張感や厳しさを入れていくが、それにプラスできることを考えよう。

入塾後まだ間もないから負担になるかもしれないが、少しでも早く日曜特進コースも受講してもらい、他の教室の子達と混ぜたり、普段よりも難問に取り組んだり、なじみのない講師の厳しい授業を受けることも必要だろう。
経験値と自信をつけてやること。
しばらくその点に気をつけて言葉を選ぶように講師のチームに伝えた。

彼女は、テストの結果に自分の努力が結びつくことを信じてがんばっていた。だが、偏差値はよくても43。そう甘くはなかった。

少しずつだが、社会の小テストは高得点を連続してとれるようになった。
心配していた記憶力だが、勉強量で補ったようだ。
心配だからと親から持たされた携帯電話のアドレス機能を利用して、少しの時間を見つけて理科や社会や算数の公式を覚える姿をよく見かけた。

6年のゴールデンウィーク。
受験なんてまだまだだとのんびりした受験生のお尻に火をつけるため、私達は「入試」を実施した。
入試に限りなく近づけた模擬テストなのだが、志望校のランクで3つのコースを設定し、そのコースの出願をしてもらう。
志望校コースを二つ記入すれば、まわし合格もある。
受験票を発行し受験番号を配布。
その結果で「合格発表」も行う。
発表後、いつもの模擬テスト同様にテスト結果を使って生徒本人と面談をして課題を明らかにする。というもの。

成績上位のメンバーは、全体の中ではそこそこ上位にいることによる油断を払拭させるため、意図的にボーダーをかなり上に設定して「不合格」を味わってもらう。自分の番号がないということ、ニセモノでもこんなに悔しいものか・・・と感じて欲しい。

逆に偏差値が低めで、自分に自信がない生徒は最初からいちばん下のコースを希望してくるので、低めのボーダーで「合格」。
自分が合格するイメージを持って前向きに取り組んで欲しい。
模擬テスト全体の偏差値と、自分の志望校合格・不合格というのは別物だということを理解してもらうねらいもある。

ユリナは、予想通りにいちばん下のコースで出してきた。
最近社会の小テストがいいとのことなので、緊張してもこのコースのボーダーならいけるんじゃないかと思っていた。
「自信」をもてたら、きっと彼女はぐっと伸びる。授業中に指名したときには、欲しい答えが返ってきている。
基礎力は十分身についている。あとなにか1つきっかけなんだよなぁ。

結果から言うと、ユリナの番号は掲示板には載らなかった。
社会は期待どおり平均点を超えていた。
しかし、算数があろうことか0点だった・・・。
計算問題すらまちがっているなんて・・・。
指導している算数の講師も愕然とした。最近の授業での様子だとそろそろ平均点ぐらいはとれるようになっているという手ごたえもあったのだ。

      


                                      ・・・つづく。
                                 (→第7話を読む)
    
   
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※立夏が体験した多くの生徒のエピソードをもとに書いたものですが、
登場する人物名・学校名・成績推移・偏差値などはどれも架空のものです。
また登場する人物も複数の生徒のことを混ぜて書いてある場合もあります。
フィクションとしてお読みくださいね。


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