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口美庵 kuchimi-an ~シドニーゲイの日々

vol, 1 「New Wave」

口美日記vol, 1 「New Wave」

先日懐かしい友人からメールがあった。友人というか彼は一時私に入れ込んでおり、わざわざシドニーにまで足を運んで来たこともあるくらいだった。私も決して嫌いではなかったが、海を隔ててまで付き合おうとか、そんな気は毛頭なかった。だから次第に音沙汰がなくなり、半年に一回くらいメールがあるかないかくらいの頻度にまでなった。そしてまた、彼のことなど忘れかけたころに、そのメールが来たのである、「何してるん?」

「何してるん?」、それだけであった。タイトルも無い。ただ、「何してるん?」。ちょっと気分を害した私は、「Re:挨拶も出来んようになったか?」と返した。そしてそれっきりまた連絡は途絶えた。

2週間が経ち、別に気にもしてなかったが、受信フォルダを整理しているときにそのメールが目に入ったので、もう一度返信してみることにした。「Re:それっきりかいっ」。数分後にあった返信は、「Re:何がー?」。いい歳をしてるくせに、彼には知的なところがない。話をするといつも結果的には私が説教をする展開になる。前々から分かっていることではあったが、お約束で反論してみた。「Re:こないだ、突然メールしてきて、それっきりやん。失礼なやっちゃな」。数時間後に返ってきた返信に驚いた。

「Re:竜二の友達ですか?」

もちろん竜二というのが、その男の名前である。私は一瞬固まった、こういう時私は何と答えるべきなのだろうか、友人か?前にちょっと・・・とか言うのか?というより、こいつは誰だ?いや、ただ本人が私をからかっているのかもしれない、そういう男だ。とりあえず、努めて明るく返した。「Re:あれっ、竜ちゃんのアドレスちゃいますの?失礼ですがどなたですか?」。それに対する返事が来たのは翌日だった。

「Re:竜二と付き合ってた者です」

う・・・。私は少したじろいだ。過去形だし。昔の男が何で元彼の携帯を所持しているのかも理解できなかった。これも嘘なのだろうか。続けざまに返信が返ってきた。「Re:どういうご関係ですか?」。これでもおよそ彼の使いそうにない敬語であった。どうもホントに本人ではなさそうである。どう答えたものか、とも考えたが隠すこともないので、「Re:単なる友人です」とだけ打った。そしてしばらくして返ってきたメールに私は目を疑った。

「Re:竜二は刑務所に入ってます」

なんと。意外な成り行きに私はしばらく考えがまとまらなかった。決して頭のいい人ではなかったけれど、犯罪を犯せるような人間ではなかった。それだけは言える。けれど、彼は刑務所にいる、なぜだ。「クスリじゃない?」、事情を知る私の同僚が耳打ちした。クスリ・・・。彼とそんな話は一度もしたことがなかった、お金は有り余っている人だったので、それも有り得ない話ではない。大麻でさえ逮捕される日本である。ポケットマネーで良からぬ商売でも始めたのかもしれない。彼の元彼だという男に聞いてみようか、いや、決して教えてはくれないだろう。彼は明らかに私に嫌悪感を抱いている。追い討ちをかけるように、一通のメールが届いた。

「Re:もう、竜二の事はそっとしておいてください」

終わった。これ以上、詮索しても仕方が無いだろう。事実が明らかになったところで、私には何もすることが出来ない。ただ疑問に残るのは、それならばあの2週間前の突然のメールは何だったのか。「何してるん?」、その後、私の返信に返事する間もなく逮捕されたというのだろうか。謎は深まるばかりである。

オーストラリアに来て早8年、日本の友人からは結婚したという報告もあれば、子供が出来たという吉報もあった。昔飼ってたフェレットが死んだという訃報さえもあった。が、しかし、知人が、しかも短期間とはいえある感情を抱いた人が刑務所に入った、というのは新手である。ニューウェーブだ。人生とは、ホント何が起こるか分からないものである。毎日こんな不可思議なことが起これば、私はいとも簡単に作家になれるかもしれない、うふふ、と微笑する私である。

うつぼかずら口美


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