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カテゴリ:日記
郵便局のアルバイトを終えたカルロスは、いつもようにロージー
の店によってミートボールサンドを10個注文した。 「11個じゃないのかい?」 ロージーはミートボールのたれがついた親指を真っ赤な舌の先で すばやく舐めながらそう言った。 「今日はいいんだ。いや、僕がしばらくは食べられないんだ」 カルロスは、カウンターに置いた参考書を指先で叩いた。 「どうして、嫌いになったのかい。それとも糖尿かい」 「実は、日本で試合することになったんだよ」 「ほう、おめでとう……。って、言っていいのかい? 日本人はたく さんお金をくれるって話だけど」 「うん、僕はこれでバイトをしないで勉強に専念できるかもしれない し、家族たちにもミートボールサンドを毎日たっくさん買ってあげら れる」 「それにしちゃ、うかない顔だね」 「うん。一年間、試合どころか練習もしてなかったからね」 「試合の勘かい?」 「いいや、負けるために行くんだからそんなものは必要ないんだ」 「そうなのかい……」 「家族のためなら負けるのなんかつらくない。僕は元々ボクサーじゃ ない……。弁護士になるんだから」 「じゃあ、どうしてなんだい?」 「体重がね……、ちょっと」 カルロスは目を伏せた。 「ああ、そうだねえ」 ロージーは、カルロスの突き出た腹を見て大きなため息をついた。 「私のミートボールサンドのせいだねえ。すまなかったねえ」 「ロージーのミードボールのせいじゃないよ」 カルロスは激しくかぶりを振った。 「でも痩せなくっちゃ」 「どのくらい」 ロージーは悲しそうな顔をした。 「20キロ……。ひとつきで……」 「20キロ!」 両手を頭の上で振りながらカウンターから飛び出してきたロージー は、カルロスをきつく抱きしめた。 「ロージー!」 「そんな減量をしたら死んじゃうよ! 減量に成功しても日本まで飛 行機で二日もかかるって言うじゃないか。リングに立てないよ! 死んじゃうよ!」 ロージーは号泣している。 「大丈夫だよ、ロージー。僕はできる。絶対にできるんだ……」 カルロスはロージーの大きな背中を優しくなでながら、自分に言い きかせるようにそう言った。
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最終更新日
2006年05月09日 21時14分21秒
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