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カテゴリ:読書(フィクション)
1989年2月9日、そのころ私は10日ほど実家から会社に通っていた。その20日ほど前に母親を亡くしていたので、霊前への「おかんき」をする必要があったためである。家に帰ると妹が開口一番「手塚治虫が死んだわよ」といった。その後暫くは何をしていたか記憶がない。気がついたら深夜テレビ番組を見ていた。その後一週間ほどは昼間にわけも無く涙が流れた。こんなことは母親のときでもなかった。(たぶん涙の種類が違うのでしょう)誰かが天皇が死んで「自分の中から何かがすっぽり無くなっていった」といっていて、こんな人までそんなこというのかと思っていたが、手塚が死んで実感した。 最初のおぼえている本は手塚の「ジャングル大帝」。カラーのおそらく二回目の書き直しの版だと思う。ねずみが船の中で幼いレオにミルクをあげるためにストローを継ぎ足していくのを何度も飽きずに眺めていた。近所の駄菓子屋で、10円四個のたこ焼きを食いながら、サンデー連載の「どろろ」を順番かまわず読んでいた。「火の鳥未来編」を真似て「大氷河時代」という漫画を書き、地球の未来を憂える作品をものにしようとしたが、失敗した。本屋で立ち読みすることを覚えて手塚作品は全て読みきった。と、思っていたらいつの間にか青年誌に書いていて、「奇子」によって戦後史に闇があることを知った。日本テレビの24時間番組で、手塚のアニメが復権したときは素直に嬉しかった。NHKで「手塚治虫漫画の秘密」というのをやり、24時間働いてそれでも「僕には漫画のアイディアだけはバーゲンセールが出来るぐらいあるんだ。」といったとき、正直初めて漫画家になる夢を諦めることができた。精神的には手塚の漫画とともに育ってきた。ぽっかり穴が開いても、当然である。 あれから一体何年経ったのだろうか。えっ、17年!? と、いうことは手塚治虫を歴史上の人間としか思えない人がもう二十歳以上になっているということ? アトムはまだ誕生していないけど、21世紀のコンピュータ社会になっても、下駄履きのヒゲ親父みたいな中年はごろごろしていることが証明された。「ガラスのような地球」はさらなる危機に喘いでいる。手塚が警告したクローンの問題はさらに精鋭化している。戦争はその後大きいのが四回も起きた。生と死の問題は全然解決されていない。あれから17年間、人類は何をやってきたのだろう。 一方漫画雑誌は次々と衰退している。手塚がいた頃から既にわかっていたことだ。問題は技術ではない。何を訴えるかだ。特に子供に。手塚ならその媒体は漫画でなくてもいい、というだろう。ゲームでもいい。けれども、市場に手塚作品に匹敵する「良品」はあるのだろうか。 あれから17年……。信じられない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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>一方漫画雑誌は次々と衰退している。
そうなんですか。今の日本で一番創作力のあるのは文学でも映画でもなく漫画だと思っていたのですが。 総合雑誌的なものがそれほど支持されなくなって、趣味的なものやニッチ的なものがそこそこ売れるといった傾向から来るものなのか、書籍全体が売れなくなっていることと同じなのか、どうなんでしょう。 いずれにしても新人作家が鍛えられる場が減ることになるのは、将来が心配ではあります。 (2006年02月10日 22時12分04秒)
「おかんき」とは?
風習の違いなのか、私が宗教を知らな過ぎるのか... (2006年02月11日 11時32分09秒)
この年衝撃だったのが手塚治虫の訃報でした。
手塚の発想や方法の限界はあると私自身は思っていますが、それにしても彼がひらいたマンガ世界の深さはすごい。今でも通用するものが豊富にあるのは確かだと思います。 (2006年02月11日 21時50分48秒)
ももたろうサブライさん
>>一方漫画雑誌は次々と衰退している。 > > そうなんですか。今の日本で一番創作力のあるのは文学でも映画でもなく漫画だと思っていたのですが。 > 総合雑誌的なものがそれほど支持されなくなって、趣味的なものやニッチ的なものがそこそこ売れるといった傾向から来るものなのか、書籍全体が売れなくなっていることと同じなのか、どうなんでしょう。 > いずれにしても新人作家が鍛えられる場が減ることになるのは、将来が心配ではあります。 ----- 単行本は売れているらしいのですが。私はサンデーマガジンは七歳のときからほとんど途切れず読み続けているというのが、密かな自慢なのですが、最近は本当につまらない。手塚のように何本も連載を抱えて、なおかつ毎週感動作を作って、なおかつ長編大河連載もこなすような超人が現れない限りはこの傾向は止まらないでしょう。そこそこいい作品を書く漫画家はいるのですが、結局五年くらいかけて一つ名作をものにするという程度ではだめです。 今思いつきましたが、毎週インパクトある漫画を書くとなると、ギャグ漫画で天才が出たら少し変わるかもしれない。 (2006年02月12日 01時46分44秒)
ポンボさん
>「おかんき」とは? >風習の違いなのか、私が宗教を知らな過ぎるのか... ----- 国語大辞典を引いても出てないので、たぶんここらあたりの言い方なんでしょうね。うちは真言宗なんですが、葬式のあと納骨まで、毎日仏前で「のうまくさんまんあきゃしきらぼた……」と真言を唱えるわけです。お盆とかで唱えるやつと一緒です。まあ毎日坊さんを呼ぶわけには行かないですからね。どうやら死者はそうやって次第次第と仏さんになっていくみたいです。 (2006年02月12日 01時53分02秒)
朱夏さん
コメントありがとうございます。 >この年衝撃だったのが手塚治虫の訃報でした。 >手塚の発想や方法の限界はあると私自身は思っていますが、それにしても彼がひらいたマンガ世界の深さはすごい。今でも通用するものが豊富にあるのは確かだと思います。 ----- よく考えたら、手塚の読み直しを最近誰もしていません。21世紀になった今こそ、しっかりと読み直すべきだと思うのですが。 (2006年02月12日 01時56分41秒)
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