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2006年12月25日
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テーマ:本日の1冊(3115)
今年のベストワンです。テーマは「男の贈り物」。ハードボイルド短編集です。もちろん、男にも読んでもらいたいけど、女性にはもっと読んでもらいたい。私からのクリスマスプレゼントだと思ってもらって「まあ、今頃紹介されても遅いじゃない」と拗ねていただいたら、嬉しい。

「セント・メリーのリボン」稲見一良 光文社文庫
「死を怖れ、怯えてただとり乱すことと、死ぬ覚悟を決めた上で息のある限り生きようと足掻くことは別だ。」
「麦畑のミッション」という短編の中で、B17爆撃機をイギリス田舎の水路に不時着させようとする直前、ジェイムス大尉はいつか見た罠にかかった雄ギツネのことを思い出す。
「信じられないことが時には起こるもんだ。絶対にありえないと言えることなど、世の中には何もない。」
大尉は息子にそんな風に話を聞かせてもいた。そして、この水路の近くにいる息子にいつかこのB17Fジーン・ハロー号を見せてあげるとも約束していた。

稲見一良のことはまったく知らなかった。今回「この文庫が凄い」で06年度第二位になったことで読んでみた。結果、ずーと手元においておきたい一冊になった。値段は税込み500円。本の厚さからいって100円ほどサービスしているような気がする。稲見一良の文章を広めようとして、遺族・出版社ともに儲け部分を削ったのだろうか。そう、稲見一良はすでに故人だ。活躍期間は89年から94年の5年間のみ。5冊の本が残された。処女長編「ダブルオー・バック」を刊行した時点で、医師から余命半年と宣告されていたと言う。

ガンはいつの間にか特別な病気ではなくなった。ガンを克服する人は多い。ガンで亡くなる人はさらに多い。ガンを告知されて、余命を延ばしながら素晴らしい仕事を成し遂げた人も枚挙にいとまない。例えば、余命は延ばさなかったが、「一年有半」の中江兆民、近くは約一年と少しで五冊の著書と旺盛な講演活動をした考古学者佐原真、今現在闘っている辺見庸。

みんなに共通しているのは、死を見つめていない、ということだ。死は見つめなくとも目の前にある。だとしたら、見つめるのはそこからしか見えない生の世界だ。とくに稲見一良はその人柄か、本当にやさしく見つめている。

中篇「セントメリーのリボン」で少女は犬専門のこわもての探偵、竜門卓に言う。
「無愛想に見えて、気配りのある優しいお人やから。」
「わたしがか?」
「とぼけてもだめ。自分でもわかっているはずや‥‥‥」






最終更新日  2006年12月25日 22時44分22秒
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