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カテゴリ:洋画(05・06)
昨年劇場で見た映画は、韓国で見た二本を加えて96本でした。その中から、厳選してベスト20を選ぼうと思います。
06年の映画興行は、久しぶりに邦画が洋画を追い抜いたらしい。実際ブロガーの中には「今年は邦画の豊作の年だ」という方も何人もいる。事実見るべき作品は何本かはあると思う。しかしそれでもなお、私としては今年の作品群を回顧して言わざるを得ない。 今年は近年まれに見る洋高邦低の年だった。特に、アメリカ映画で見るべき作品が多かった。 なぜそうなったのか、要因として考えられるのは以下の三点。 1.昨年以前の作品で素晴らしいのが今年岡山上映にずれ込んでしまったものが三点もある。そしてなおかつ、本来は来年の公開になるはずか、日本が舞台であるという理由で今年のスピード公開になった作品が二点ある。 2.9.11以降顕著になったハリウッドのCG多用忌避傾向が脚本重視に結びつくようになった。 3.秋の中間選挙を迎えて、アメリカ国民の間に現在の状況をきちんと批判的に見ようとする芽が出てきた。 9.11ショックから5年目にして、やっと洋画はそのショックから立ち直った。その結果が今年の洋画群なのだ。 よってベスト20の中にはアメリカ映画が圧倒的に多い。これでも厳選したのである。その一方で邦画はもとより、ヨーロッパ映画とアジア映画の不振は深刻だ。来年を期待したい。 そういうわけで、ベストワンはアメリカ映画の中から選ぶ。今回選ぶアメリカ映画はすべて甲乙つけがたい。そういう時は、作品の完成度よりも自分に与えた衝撃度の大きいほうが優先されるだろう。 ベスト1.「スタンドアップ」私がセロンのファンだからでは、決して無い。まず最初に一人が立ち上がる。そのことの意味は限りなく大きい。セクハラ裁判の話ではあるが、私はそれのみには受け取らなかった。泣き寝入りをしつつあるすべての労働者よ、独りでも立ち上がろう。そして仲間を信頼しよう。 ベスト2は不振のアジア映画の中から選ぶ。しかしこの「ココシリ」だけは別格である。チベットの厳しい自然の中で撮影されたカモシカ密猟集団との死闘。社会性とエンタメ、ドキュメント的な具体性と神話伝説として語られてもおかしくない普遍性、反骨映画なのに中国各賞を受賞したしたたかさが往年のチャン・イーモウを思わせる。期待の新人が登場した。 ベスト3は礼儀として日本映画から。「かもめ食堂」日本映画の長所である日常生活の細やかな描写。フィンランドというとっぴな舞台を得て、毎日のおにぎりを握ることや、皿みがきや、身体運動や散歩が、すべて意味のある広がりを持った。 ベスト4.「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」二部作。クリント・イーストウッドという頑固親父がついに立ち上がり、イラク戦争に反対する映画を撮った。この鋭さ。懐の深さ。この悲しみ。 ベスト5.「亀も空を飛ぶ」イラクのクルド人監督バフコマン・ゴバディの作品を初めて観た。今も続く泥沼のイラク戦争。それなのに今から考えると奇跡のような時期に撮影されたイラク北部を舞台にしたイラク戦争を批判する映画。具体性と普遍性を併せ持った、子供の目を通してみたイラク戦争。 ベスト6.「イノセントボイスー12歳の戦場」ほんの20数年前のラテンアメリカの現実。子供たちが直面する厳しい運命。一般家屋の中で内戦の流れ弾が飛び交い、そこで歌われるラテン音楽の叙情。 ベスト7.「博士の愛した数式」数式から世界と人生の秘密を探る。素晴らしい原作を見事に換骨奪胎した小泉堯史監督の力量。この映画と能の関係についても話題を読んだ。 ベスト8.「グエムルー漢江の怪物」今年の夏、韓国を一周する旅行をしている間、公開してから二ヶ月以上近くたっているのにこの映画がずーと映画館の一番大きい看板を占め、客を集めていた。漢江の怪物とは実はソン・ガンホのことである、というのが私の「説」なのだが、いまだその説は数多ある批評の中では無視されている。いいのだ。その説が、そのように星の数あるブログの中で不気味に存在することが、この映画の批評にふさわしい。 ベスト9.「ナイロビの蜂」原色のアフリカの映像と青が基調の西側国連職員の生活との対比、それが中盤に入って国連職員自体がアフリカの現実に入っていく中で変わっていく。そして亡き妻への愛情に気がついていく。社会性と愛情物語を統一させた見事なラスト。(←これも私の説です) ベスト10.「ミュンヘン」ユダヤ人であるスピルバーグの9.11総括。暴力の連鎖に対する明確な批判。この力技は凄い。 ベスト11.「白バラの祈り」ナチスに早い段階で抵抗し、殺された学生組織の話。逮捕されるまでのドラマ、取調官との対話劇、処刑に至るまでの緊張した心の動き、見ごたえがあった。 ベスト12.「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」 CG全開、外国ロケ満載、有名俳優の起用、の前にまずアイディアとセンスありき。大作とはこうでなくちゃ。 ベスト13.「武士の一分」藤沢時代劇三部作の最後。これはいまどきの若者風の主人公が、武士の一分に拘っていた自分を克服する、いわば一分を否定するまでの物語である。(←これも私の説) ベスト14.「 Vフォー・ヴェンデッタ」 アメリカと共同歩調を取ったイギリスはこの十数年夜警国家を完成させてきた。そういう現実に対するプロテクト映画をエンターテイメントとして作っているのが凄い。おりしもこの映画がヒットしている頃、日本では共謀罪が強行採決の危機を迎えていた。かろうじて回避されたが、そういう現実が日本にもあると知りながらこの映画を観ると、さらに怖い。 ベスト15.「ホテル・ルワンダ」エンタメというと、この映画も社会性とエンタメを見事に融合させていた。インターネット上の上映運動(私も一筆参加)が実を結んだ例としても記憶に残したい。最後の歌は今年の主題歌賞もの。 ベスト16.「ニューワールド」文明から原始共同体へ、原始共同体から文明へ。その体験を映像と音楽で雄弁に語る。素晴らしき映像体験。あまり話題にならなかったが注目すべき作品。 ベスト17.「スーパーマン・リターンズ」スーパーマンは還ってきた。父(神)の言葉を実践するために。しかし、この「神」はブッシュ大統領の信奉する神ではない。慈愛に満ち、市民の自立を期待する神だ。アメリカの神はやっと自らの役割を思い出した。アメリカ人はこれからも模索しながらヒーローを追い求めるだろう。 ベスト18.「クラッシュ」単なる脚本家ではないことを示したポール・ハギス。多人種社会の中で、中盤の事故の「触れ合い」があまりにも素晴らしい。 ベスト19.「スピリット」武道精神の見事な映像化。こんなに泣かされるとは思わなかった。 ベスト20.「フラガール」見事な役者魂を見せてくれた。 ほかに、「グッドナイト&グッドラック」「カポーティ」「トゥモローワールド」「単騎千里を走る。」「トンマッコルへようこそ」「紙屋悦子の青春」「手紙」「デスノート後編」「虹の女神」「空中庭園」などが注目すべき作品として残った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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アメリカ映画に良作が多かったというのは、全く同感です。
一時時代に流されても、必ずはっきりとした形でアンチテーゼがくる。 それも社会派から娯楽作まで幅広い形なのが、アメリカ映画の深さを感じますね。 今年は日本からも、時代を感じさせる作品を期待したいですね。 http://noraneko22.blog29.fc2.com/ (2007年01月02日 00時26分26秒)
哲0701さん
>子供がからんだ秀作が多かったように >思えます。 >おそらく次の世代への希望なのでしょうか。 > >アンゲロプロスの次の作品が待たれます! ----- つくづく「トゥモローワールド」のあの八分間だけは秀逸でした。 おお、アンゲロブロス!三部作の二作目はどうなっているのでしょう。 (2007年01月02日 09時59分54秒)
ノラネコさん
>アメリカ映画に良作が多かったというのは、全く同感です。 >一時時代に流されても、必ずはっきりとした形でアンチテーゼがくる。 >それも社会派から娯楽作まで幅広い形なのが、アメリカ映画の深さを感じますね。 >今年は日本からも、時代を感じさせる作品を期待したいですね。 >http://noraneko22.blog29.fc2.com/ ----- いま気がつきました。「花よりもなほ」が抜けていました。いまひとつピンとこなかったんですが、想いだけは伝わりました。 アメリカ映画はなかなか超えることのできない釈迦の掌みたいなものですね。 (2007年01月02日 10時03分28秒)
1位はスタンドアップなんですね。シャーリーズセロンキレイよねー。それがあの炭鉱労働者の役!すばらしかった。藤純子さんの炭坑婦もさすがでした。今年は労働者よ立ち上がれ!の年になるでしょうか。新しい形の立ち上がれ運動に期待。
ロウドショウは見てないけどココシリはもうすぐ見る予定。楽しみ・・・。 私の1位は、その「衝撃度」というところで「麦の穂を揺らす風」と「蟻の兵隊」かな。蟻は記録映画なのでジャンルちょっと違いますが。 (2007年01月02日 10時51分41秒)
「スタンドアップ」が一位ですか。
確かにいい映画でしたね。 でも、私は「ナイロビの蜂」のほうが上かなと思うけど・・・好みと評価と使い分けるのは難しいのかも? それから「フラガール」の順位をもっと上げてくれない・・・? それにしても、年間96本というのがスゴイですね。 今年もよろしく お願いします。 (2007年01月02日 11時37分59秒)
ヨーコ1015さん
>1位はスタンドアップなんですね。シャーリーズセロンキレイよねー。それがあの炭鉱労働者の役!すばらしかった。藤純子さんの炭坑婦もさすがでした。今年は労働者よ立ち上がれ!の年になるでしょうか。新しい形の立ち上がれ運動に期待。 まずはホワイトカラーエグゼンプション(サービス残業合法化案)に対する明確なNOの声を集めるべき。これは勝算があります。 >私の1位は、その「衝撃度」というところで「麦の穂を揺らす風」と「蟻の兵隊」かな。蟻は記録映画なのでジャンルちょっと違いますが。 ----- この二つはこれから観ます。楽しみです♪ (2007年01月02日 14時40分05秒)
Mドングリさん
>「スタンドアップ」が一位ですか。 >確かにいい映画でしたね。 >でも、私は「ナイロビの蜂」のほうが上かなと思うけど・・・好みと評価と使い分けるのは難しいのかも? >それから「フラガール」の順位をもっと上げてくれない・・・? > 今回は順位をつけることはあまり意味がありませんでした。いつもは20位くらいだと一位と20位との間のあまりもの落差に、つけていたのですが、今年の場合はほとんど落差はない、と思っていてください。ただし、アメリカ映画と日本映画の差は明確にありました。それは強調しておきたかったんです。 (2007年01月02日 14時43分23秒)
こんばんは。
私にとってもスタンドアップもとても印象的な作品です。炭鉱町を舞台にした作品は意外と心に残る作品が多いです。今年でいうとフラガールもそうですよね。 個人的にはどうしても比べられなくて順位はつけられなかったのですが、こちらにあげられていらっしゃる作品達はどれも秀作でした。 また今後も楽しんでいきたいですね。 今年もよろしくお願いします♪ (2007年01月02日 21時15分11秒)
charlotteさん
コメントありがとうございました。 炭鉱町にしろ、鉄鋼町にしろ、数代にわたって続いてきた産業で、なおかつ個人の力ではどうしようもない衰退産業なのだからでしょう、最後に頼りになるのはやはり個人と仲間なのでしょう。 今回は順位をつけなくて正解なのかもしれません。 (2007年01月03日 00時52分49秒)
やっぱり私が観てない作品がたくさんあるなぁ。そんな中で邦画のトップが「かもめ食堂」なのはうれしい気がします。
ところで、アメリカの中間選挙での民主党の勝利は報復戦争の虚しさを自覚した結果ということなのでしょうけど、アメリカは9.11テロそのものをどのように捉えたら良いのかの結論を出せていないですよね。 (2007年01月04日 20時16分28秒)
ももたろうサブライさん
> やっぱり私が観てない作品がたくさんあるなぁ。そんな中で邦画のトップが「かもめ食堂」なのはうれしい気がします。 > 私的にはもっとも衝撃がありました。けれども作品完成度で言うと、たぶん「博士の愛した数式」や「武士の一分」のほうが上でしょう。 > ところで、アメリカの中間選挙での民主党の勝利は報復戦争の虚しさを自覚した結果ということなのでしょうけど、アメリカは9.11テロそのものをどのように捉えたら良いのかの結論を出せていないですよね。 ----- 日本平和大会で、アメリカの平和運動家の人が言っていたのですが、民主党はイラク戦争を今でも明確に支持しているし、軍事費の増大も支持している。アメリカの国政の転換ではないといっていました。それを転換させるのはこれからのさらなる草の根民主主義しかない、とも。今のところは純粋に「虚しさを自覚した」段階なのでしょうね。 (2007年01月04日 23時38分57秒)
今年は、、「キネ句」より早くを合言葉に、ブロガーが選ぶベスト10を作りました。
どうぞ、見てやってください。 (2007年01月06日 23時55分05秒)
aq99さん
>今年は、、「キネ句」より早くを合言葉に、ブロガーが選ぶベスト10を作りました。 >どうぞ、見てやってください。 ----- 今年も映画専門ブログでない私の記事を選考対象に入れていただきありがとうございました。大変だったでしょう。 ところがどうも、こっちにはTBが通っていないみたいです。最近こんなことが多い。困ったものです。aq99さんの記事はこれです。キネ旬報よりも信頼が置けると私は思います。 http://blog.goo.ne.jp/aq99/e/7a65a80378dc4290814be8f1a0b9995c (2007年01月07日 00時38分50秒)
KUMAさんこんばんわ♪TB有難うございました♪
何だか自分のTBも反映されず、コメントのみになってしまい申し訳ありません。 KUMAさんのベストを観ると本当に昨年は戦争を扱った映画が多いですね。自分が観ていないのもたくさんあります。あまり観察眼が無いから、もしかしたら意図的に避けていたかもしれませんけどね(^^;)(汗 社会派・戦争モノが多かった去年とは対称的に、今年は楽しい映画が多ければ嬉しいです。 (2007年01月08日 00時59分22秒)
メビウスさん
>KUMAさんこんばんわ♪TB有難うございました♪ > >何だか自分のTBも反映されず、コメントのみになってしまい申し訳ありません。 >KUMAさんのベストを観ると本当に昨年は戦争を扱った映画が多いですね。自分が観ていないのもたくさんあります。あまり観察眼が無いから、もしかしたら意図的に避けていたかもしれませんけどね(^^;)(汗 >社会派・戦争モノが多かった去年とは対称的に、今年は楽しい映画が多ければ嬉しいです。 ----- コメントありがとうございました。 私がまじめなものが好きなということも、このベストに反映されていると思いますので、やっぱり何を選ぶかは人それぞれですよね。 今年は、腹がよじけるくらい笑わせてくれた作品が出てくればいいなあ、と思います。 (2007年01月08日 09時12分57秒)
ストイックかつ社会派揃いのラインナップですね、
あらためてボクのラインナップの「中高生っぽさ」を 実感します(笑) とはいっても、観ていない作品がほとんどですので、 ボクもまずは『スタンドアップ』を観てみようと思っています。 楽天のメンテナンス以降、どういうわけか全ての 「トラックバックURL]が表示されなくなってしまいましたので、 トラックバックしたいのに出来ず、 コメントだけになってしまいますが、 よろしくお願いします(^^) (2007年01月10日 11時32分29秒)
ストイックかつ社会派揃いのラインナップですね、
あらためてボクのラインナップの「中高生っぽさ」を 実感します(笑) とはいっても、観ていない作品がほとんどですので、 ボクもまずは『スタンドアップ』を観てみようと思っています。 楽天のメンテナンス以降、どういうわけか全ての 「トラックバックURL]が表示されなくなってしまいましたので、 トラックバックしたいのに出来ず、 コメントだけになってしまいますが、 よろしくお願いします(^^) (2007年01月10日 11時34分07秒)
lalameansさん
コメントありがとうございました。 改めて私の「スタンドアップ」評を読んでみたんですが、あのときの感動を思い出して、ちょっと泣きそうでした。わたしもじゆうぶん中高生っぽいです。 TB通らないんですか。すみません。どうしてなんでしょう。同じ楽天なのに。よく分からないです。 (2007年01月11日 00時22分33秒) |
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