再出発日記

2007/03/01(木)12:56

マンガ「蟹工船」映画に向いている

07読書(フィクション)(21)

薔薇豪城さんの記事で漫画版の「蟹工船」が大学生協などでよく売れていることを知った。小説の漫画化は長編にならない場合は成功しないことが多い。(成功したのは「宮本武蔵」を漫画化した「バカボンド」あるいは鉄腕アトムの「プルートゥ」)  この漫画の場合はぎりぎりのところだろうか。努力賞はあげることが出来る。  いい所は、原作では分かりにくかった方言を当時の地方性を残す程度に分かりやすい現代語に置き換え、時代性で分かり難いところを、絵の描写ということである程度描くことが出来たところである。結果非常に分かりやすくなった。  一方で、原作の中の息苦しさ、臭い、そして一番肝心な登場人物の感情が描きこみ不足もあり、不十分。もちろん、ページ数の制限もあるが、力量不足と取材不足もあるだろうと思う。 「蟹工船」をこうやって改めて漫画で見ると、つくづく名作だと思う。ひとつの船の中に、無権利状態の労働者の命をモノとしか見ていない資本家、それを助ける政府陸軍、資本家におもねる労働者たち、そしてやがて労働意識に目覚める底辺の労働者、そして結果的に当時の日本そのものを重層的に描くことに成功している。そして非常に視覚的、映画的なのだ。 抵抗の仕方はだんだんと進化する。途中までは個人で、やがては組織的なサボタージュ、そしてリーダーを中心とした船中を巻き込むストライキ、それを政府陸軍の介入により潰されると最終的には労働者一人一人の自覚のもとでのストライキへ。畳み掛けるようにラストに持っていく様は非常に映画的だ。 一度映画化されているが、現代にもう一度映画化する意義は十分にあるだろうと思われる。この原作の中の、ワンカットワンカットを積み重ねる作り方や、群集シーンのモンタージュ理論の応用などはそのまま使えるだろう。惜しむらくはおそらく時代的制約もあったのだろう、最後のストライキの部分があまりにもあっさりとしているので、そこをきちんと描いてもらったなら、映画史に残るような力作になるかもしれない。描けるような監督はいるのだろうか。うーむ、それが問題だ。

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