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カテゴリ:読書(ノンフィクション)
この本は小林英夫氏による日中戦争における日本と中国の戦略比較、ひいては現代の日本の問題点を浮き彫りにした労作である。 1937年盧溝橋事件で、大日本帝国が中国と本格的な戦争に突入したとき、国民政府の蒋介石はあわてず騒がず、ソ連留学中の息子に「わしが必ず倭寇を制するから」と余裕の言葉を手紙で送ったという。実際、蒋介石の日本分析は見事であった。1938年「抗日戦の検討と必勝の要諦」という文章の中で、蒋介石はこのように日本と中国の長所短所を分析している。 ▼日本側の長所 小ざかしいことをしない 研究心をたやさない 命令を徹底的に実施する 連絡を密にした共同作業が得意である 忍耐強い ▼日本側の短所 国際情勢に疎い 持久戦で経済破綻を生じる なぜ中国と闘わなくてはならないかが理解できない ▼中国側の長所 国土が広く人口が巨大である 国際情勢に強い 持久戦で闘う条件を持っている ▼中国側の短所 研究不足 攻撃精神の欠如 共同作業の稚拙 軍民のつながりの欠如 そしてさらに「日本軍の長所は兵士や下士官クラスにおいて発揮されやすいものであり、彼らはよく訓練されていて、優秀だが、士官以上の将校レベルになると、逆に視野の狭さや国際情勢の疎さといった短所が目立って稚拙な作戦を立案しがちであることを喝破していた。」 「一方で中国は対照的に指揮官レベルの人間は国際経験も豊かで視野も広いが、平野下士官は資質が低く、訓練が行き届いていないことを承知していた。」 思い至るところがあまりにも多すぎてこの蒋介石の分析にはあきれた。よって日本の短期集中型の殲滅戦略は中国の持久型の戦略に敗れることになる。 「敵を知り己を知らば百戦危うべからず」ですね。 さらに小林氏は日中戦争を「ハードパワーとソフトパワーの相克」という視点で捉えなおす。 「戦争におけるハードパワーとは、軍事力や産業力の事をさす。一方ソフトパワーとは、直接の武力によらない政治、経済、外交のほか、メディアによる宣伝力、国際世論の支持を集めうねるような文化的魅力など、広範な力が含まれる。」 「そしてここまで見てきた日中戦争とは、ハードパワーに物を言わせて戦線を拡大してきた日本が、その力を過信してさまざまなルール違反を犯し、その結果、さまざまな反動が起きて破綻するまでの過程でもっあった。」 「ここで重要なのは、そうした野蛮あるいは卑劣な行為を行うことは、短期の殲滅戦においてはさほど勝敗に影響を及ぼすことはないかもしれないが、長期の消耗戦になった場合は、確実に自殺行為となるということである。すぐに目に見えなくても、そうした行為が世界に喧伝されて国際社会から反感を買うことのダメージは計り知れないほどおおきい。」 この文章を読んだとき、まさに憲法九条を活かす道というのはソフトパワーの道であり、現在のアメリカあるいはそれに追随する日本という国は、つくづくハードパワーの道を行っていると思ったものである。 翻り現代、新たな日本の参謀たち(霞ヶ関の官僚や経団連)はそのような過去の失敗を学んでいるといえるだろうか。いや、彼らは、少しも学ぼうとせずに、新たなハードパワーの道を突き進もうとしている。 たとえば、自動車産業。 自動車産業は、現在日本企業は、世界の生産の約1/3(二千万台)を担うに至っている。なぜ日本車は人気があるのだろうか。燃費がよくて、環境にやさしく、よい車を安く作る基盤が整備されているからである。つまり強いハードパワーを持っているからだ。 「しかし、日本の産業基盤は強靭なのか、といえば決してそうではない。いま戦後の企業経営の問題点を挙げれば、まず中期はともかく長期的見通しを持ちにくい。よいものを作れば必ず売れるという信念にも似た思い込みから海外市場のニーズの検討が弱く、その嗜好を反映していないため、機能はともかく、デザインや好感度で実力相応の評価が得られにくい。また日本の伝統文化と産業力の結合がうまくいっておらず、ブランドがすでに確立した欧米ではともかく、これから日本製品のシェアの拡大せねばならないBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)市場でのブランド確立に必ずしも成功していない。」「産業を支援すべき外交力でも、近年の経済外交の立ち遅れは目を覆うばかりである。2007年4月韓米FTA(自由貿易協定)を締結し、さらにEUとのFTA交渉を急速に進め、東アジアの物流、交易、投資のハブ足らんとする韓国の積極的な経済外交と比較すると、日本の経済外交の低迷を否定しようがない。」 (日本は)「速戦即決、すぐに効果が目に見えることばかりを重視する殲滅戦略的な考え方から、いまだ脱却できていないのではないだろうか。」 日本の参謀をそっくり入れ替えてほしい。小国民としては、切に願うところである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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興味ある本ですね。毛沢東も持久戦を主張していましたね。それで、国民党軍と共産党軍が一致でき、手を組むことができたのでしょうね。
(2007年10月07日 20時26分09秒)
まさにそのとおりですね。
長所は昔のままと言えます。 短所は、当面、日中は戦うことはないと思いますが、今アメリカが日本を引きずり込もうとしている、イラク侵略戦争には軍隊・軍需産業・自公反動政治家を除いては殆どの国民は「なぜイラクと戦うのか」が理解できていません。 ですから、仮にイラク戦争に日本が全面的に参戦しても日本の敗北は目に見えているということになります。 又、国家のためという美名のもとに、最高の技能職であるパイロットを使い捨てにした悪しき伝統は、構造改革の名の下に労働者を切り捨てるあくどい手口で立派に開花しました。 個人を全く考慮しない全体主義は、「国際社会」からも見捨てられ、いずれ第2の敗戦を迎えることになるでしょう。 (2007年10月07日 20時51分51秒)
いちいち尤もですね。
読んでみたくなりました。 (2007年10月07日 20時55分39秒)
永遠のホホエミさん
>興味ある本ですね。毛沢東も持久戦を主張していましたね。それで、国民党軍と共産党軍が一致でき、手を組むことができたのでしょうね。 ----- 共産党はことごとくそのことを自覚していたでしょう。「アリランの歌」のキム・サンが同じようなことを言っていたのが、その証拠です。一方翻って、あれほど優秀な日本の参謀がそのことに気がつかないか、政策に反映できないとは!!日本人としてショックです。 (2007年10月08日 15時59分51秒)
hiryu4398さん
本当にその通りです。 それに付け加え、私が思ったのは、実に身近な部長、常務クラスの「速戦即決」的なものの考え方です。確かに平社員よりも先を見ていますが、せいぜい三年先までしか見ていない。これではたまりません。 (2007年10月08日 16時02分18秒)
ribon5235さん
> 本当に、愚かで凶暴な将校やそれ以上の上層部の為に膨大な諸外国や国民の家庭を破壊したことでしょう。 > >ご紹介ありがとうございます。 ----- 二度とあの不幸は繰り返さない、といいながら、財政再建に一番必要な消費の回復から完全に目を背け、200万以下の収入が一千万以上、自分の会社の利益しか考えていない、短絡思考、すでに財政事情で自殺した人はこの10年で20万人に近づいているはず。 小国民の方が「真実」に気がついているというのは、すでにベトナム戦争で実証されています。早く偉くて頭のいい人たちも気がついてほしい。 (2007年10月08日 16時08分40秒)
>偉くて頭のいい人たちも
たぶん、安倍のような妄信派は、死ぬまで気が付かないでしょうね。周囲にも時々いますけど。「特措法が実行できなくなったら、日本はどうするんだ!」などと・・。「えっ、アメリカの家来を辞めたらいいんとちゃう!」と言ったら、返事なしでした。 一方福田などは「わかっちゃいるけど止められない」派ではないでしょうか?。山本五十六元帥のように、敗戦を覚悟しながら、みんなを鼓舞してしまう。 たよりは、当時とはまったく違う日本の世論です。戦後60年の民主教育はだてじゃないですよ!。安倍路線はたった1年しか持たなかったじゃあないですか。 (2007年10月08日 22時13分38秒)
hanaaraさん
>>偉くて頭のいい人たちも > たぶん、安倍のような妄信派は、死ぬまで気が付かないでしょうね。周囲にも時々いますけど。「特措法が実行できなくなったら、日本はどうするんだ!」などと・・。「えっ、アメリカの家来を辞めたらいいんとちゃう!」と言ったら、返事なしでした。 頭が良くても、アメリカの家来から離れる、なんてことは思いもつかないのでしょうか。 > 一方福田などは「わかっちゃいるけど止められない」派ではないでしょうか?。山本五十六元帥のように、敗戦を覚悟しながら、みんなを鼓舞してしまう。 私の父親なんか、山本元帥を崇拝していますが、それでいい人生を送れたかと言うと、全然ちゃうやんか。とは、今彼に言っても仕方ないのだけど。 > たよりは、当時とはまったく違う日本の世論です。戦後60年の民主教育はだてじゃないですよ!。安倍路線はたった1年しか持たなかったじゃあないですか。 ----- 例えばこういうブログ。ひとつの希望ですね。 (2007年10月09日 00時33分18秒)
KUMA0504さん
>ribon5235さん >> 本当に、愚かで凶暴な将校やそれ以上の上層部の為に膨大な諸外国や国民の家庭を破壊したことでしょう。 >> >>ご紹介ありがとうございます。 >----- >二度とあの不幸は繰り返さない、といいながら、財政再建に一番必要な消費の回復から完全に目を背け、200万以下の収入が一千万以上、自分の会社の利益しか考えていない、短絡思考、すでに財政事情で自殺した人はこの10年で20万人に近づいているはず。 >小国民の方が「真実」に気がついているというのは、すでにベトナム戦争で実証されています。早く偉くて頭のいい人たちも気がついてほしい。 ----- 20万人も自殺してるなんて大問題、全然、意に介さないのでしょう、小泉とか安倍は。 (2007年10月09日 09時44分09秒)
ribon5235さん
>20万人も自殺してるなんて大問題、全然、意に介さないのでしょう、小泉とか安倍は。 ----- 毎年三万人以上が10年以上自殺していて、経済苦が半分近くになっている現状から、勝手に類推しました。どこかできちんと数えていないかな。たとえそれが10万でも凄い数であることに変わりはない。 (2007年10月09日 23時12分18秒) |
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