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カテゴリ:08読書(フィクション)
とある、地方の三流高の三年生たちの日常を描く。前巻(06.12月の記事参照)の続編だけど、これだけ読んでも大きな支障はない。ポプラ文庫新刊の目玉として新装丁された。この二巻目はこの文庫のための書き下ろし。
「ガールズ・ブルー2」ポプラ文庫 あさのあつこ 命を削るような持病は持っていて見た目は儚げな美少女なのだけれども、仲間内では一番攻撃的で芯の強い美咲。 ボーとしているだけの美少年に見えるけれども、動物に好かれるという「才能」を持っていて、いつの間にか将来設計を決めていた如月。 デブで引っ込み思案だけれども、家庭の事情もあって、仲間内では一番社会的な自覚が高いスウちゃん。 そしてこの小説の一人称語りの主体であり、仲間内では一番成績は悪いけれども、性格はよさそうだし時々読者がはっとするような人や世界に対する観察眼を持っている理穂。 この小説は主にこの四人組の「おしゃべり」で構成されている。 それでも、あたしたちはしゃべって、しゃべって、相手のおしゃべりに耳をかたむけて、相槌をうったり、頭を横にふったり、たまに黙って考え込んだりしながら生きている。コンビニの前に座りながら、駅の構内にたむろしながら、横断歩道を渡りながら、しゃべって、聞いて、頷いて、首をかしげている。そんな言葉に濡れるのなら文句はない。むし暑い夕方、にわか雨に出会うようなものだ。気持ちいい。気持ちよくないのは、型通りの挨拶とか、教師の小言とか、もっと偉い人の説教とか、テレビの騒ぎとかだ。それはつるんとして突起がなく、いつだってしゅるしゅるとあたしたちの上を滑っていく。しゅるしゅるを侮ってはいけない。と、このごろ、あたしは思うのだ。 しゅるしゅるが集まって、けっこうな流れになる。いつの間にか、押し流れてしまいそうな‥‥‥そんな不安を覚えることが、まあ本当にまれにだけどあるのだ。 言葉には突起が欲しい。衣服や動物の毛にくっついて運ばれるちゃっかりのものの種子のように、滑らないでくっついてきて欲しい。あたしたちを無理やり押し流すんじゃなくて、あたしたちの内にちゃんと留まっていく突起のある言葉が、欲しいのだ。 これが本当に落ちこぼれ理穂の言葉か?と疑ってはいけない。理穂はたぶん回りも本人も気がついてなくて、おそらく一人理穂に片思いしている大学生の睦月だけが気がついているのだろうが、恐ろしく文才のある女の子なのである。なにしろラ・ロシュフコーの「箴言」が愛読書なのである。この本を読んでいると、つくづく競争原理を導入する新学習指導要領は彼女たちを潰すのではないか、と思う。 彼女や彼の「才能」を潰す。 新学習指導要領の採点項目には 「病気に負けない強い心」なんてのはあるだろうか。 「動物に好かれる」なんて項目はあるだろうか。 「新聞を毎日読む」なんてことはどうだろう。 「つるんとした言葉と突起のある言葉の違いを示せ」なんていう出題はするだろうか。 今日さんの今日の記事「自己責任論の教育版・学習指導要領」 にありました。 ある授業でこういう会話がされたそうです。 「『先生ぜんぜんわかんないよ』と叫ぶ子がいました。 『それじゃ、わかんない原因はなんだと思う?』と生徒たちに聞いてみました。 『先生の授業のやり方が悪いから』には手が挙がりませんでした。 『教科書が悪いから』には一人の子が手を挙げました。 残り30人がいっせいに手を挙げたのは、 『私の頭が悪いから』でした。 びっくりしました。 何かあればすぐ他人のせいにしたがる子どもたちが、 こと勉強については自分の頭が悪い、と思っている。 ここにストレスの根本があるのではないか、と思いました。」 (あきる野市・中学理科・雨滝洋介・『子どもと教育』45p・ルック・2005・1月号) どうすればいいのだろう。 一つの答がこの四人組の生き方にあるかもしれない。 彼らはおたがいそれぞれの「能力」を認め合っています。尊敬しあっている。だから決して彼らは卑屈にはならない。そして次第に自分の生きる道を見つけていきます。 あさのあつこは、教育基本法を改悪されたいまの世の中を眺めながらこの小説を執筆したのでしょう。彼女の想い、危機感が良く伝わる小説です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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