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2009年08月06日
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消え行く少女(後編)前後編 小学館 白土三平
1959年のこのとき、白土三平は紙芝居の世界から貸本漫画の世界に移って二年目だった。金はなかった。子供もできて稼ぐ必要のあった彼はこの一年に19冊の本を刊行したという。まだアシスタント体制をとる前の話である。全部自分で描く。しかし、えてしてこのような超人的な忙しさの中から名作は生まれるものなのだ。

白土三平の珍しい現代劇漫画であるのと同時に、おそらく日本で初めて被爆者のことを扱った漫画だ、ということを聞いて、復刻版なので高かったが買うことにした。満足した。

今日は、ヒロシマに原爆が落とされて64回目の夏。

中沢啓治の「はだしのゲン」の連載が始まったのが1973年である。その14年前に描かれた原爆症の少女が主人公の漫画がここにある。それだけで、この漫画はもっと知られてよい。

しかし、驚くのは、(おそらく)日本で始めての被爆漫画だということだけでない。後半は在日朝鮮人の拉致問題も扱われるし、その他今も問題になっている「貧困格差」問題も扱われている。それらが驚くことに、当時の貸本漫画の中でおそらくブームになっていた「少女の難病もの」という漫画のジャンルのなかで「エンターテイメント」として描かれているのである。
P7白土三平一.JPG
冒頭遠くからB-29がやってきて8時15分原爆が落とされる場面、14p続いているが、丸っこい描線や映画的手法に手塚の影響は見られるものの、描かれている内容はすでに大きな隔たりがある。そもそも原爆が落とされたあとの地獄のような様子をこんなにも早く漫画にしたことが凄いの一言である。

主人公の高校生の雪子は母親を「原子病」で亡くす。半場の仕事仲間で雪子の幼馴染の三太の家に居候になるが、経済的困窮を見かねて雪子は家を出てしまう。吝嗇家で労働強化をしいるラーメン屋の夫婦のところでしばらく働き、首になったところで親切な社長さんに拾ってもらう。けれども、その家の家族に意地悪をされ、家を出ると、息子を戦争で失った石焼芋売りのおばあさんところでしばらく一緒に暮らす。けれども天皇の正月参拝のとき「むかしは私のようなものが天皇様のお顔を拝することなんてできなかったものだからね」と言って出かけて群衆につぶされ圧死してしまう。雪子はさらに放浪し、こじきのような格好で田舎を放浪し、田舎の子供や大人の慈悲のないいじめにあって死にそうになっているところをなぞの山男に拾われるのである。(ここまでが前半)

波乱万丈、「かわいそうな少女」ものの展開であるが、その間雪子はずっと被爆症状であるめまいや発熱に苦しむし、社長の家の(映画でよくある)意地悪だけでなく、さまざまな階級の人達を描き分けていて、一般的な少女受難物語からすでに外れている。白土三平はデビュー当時からすごかったのだ、と改めて思った。

P7白土三平二.JPG
おばあさんの圧死場面。かつて天皇を漫画で描いた作品があっただろうか。私は記憶にない。しかも、戦死遺族はあくまでも天皇を慕い、しかし正月参拝のときに圧死するという悲劇を描いて、おそらく通常の雑誌では絶対描けないようなことも描いている。

後半前半の波乱万丈からトーンが変わって主に山男との二人の話になる。

P7白土三平三.JPG
背景としては強制連行された朝鮮人労働者・李貴道が鉱山の事故で脱走していたが、敗戦を知らずずっと山に暮らしていたということがある。彼の強制送還がもうひとつの悲劇を生むのであるが、そのまえに雪子と山男の「ユートピア」的時間が丁寧に描かれている。

これは、のちの「カムイ伝」における自然と人間とのテーマにもつながり、興味深い。

P7白土三平四.JPG
最後は雪子の幼馴染の三太が昭和33年ビキニの原水爆実験反対の運動に立ち上がっている。当時はまだ原水爆運動が始まったばかり、分裂も起こっていない。「戦争の悲劇は終わっていない…。一人の少女が消えていった。そして第二、第三の雪子が、また消えていこうとしている…そして原水爆の実験はいぜんとして続けられているのた゛!」と終わるのである。つぎはぎの学生服を着た三太は肉声で演説し、それを若い女学生や労務者、会社員などが聞いている。当時、白土三平は普通の風景として描いたのだろうが、今ではありえない風景ではある。学生が社会変革の前衛となる日はもう来ないのだろうか。






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最終更新日  2009年08月06日 13時15分04秒
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