6855116 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

再出発日記

再出発日記

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

フリーページ

カテゴリ

お気に入りブログ

いただき女子の犯罪 New! 七詩さん

利己か利他か 釈然… New! ポンボさん

唐組 第73回公演『… New! シマクマ君さん

源氏物語の紫式部日… New! Photo USMさん

『子供より古書が大… New! Mドングリさん

カレンダー

2009年09月30日
XML
映画を見る前にひさしぶりに原作を買って読んでみた。思えば、27年ぶりに読んだ「カムイ外伝」第二部の絵である。

カムイ外伝
映画ではいろいろと制約があったからかもしれないが、やはり残念な部分が幾つも幾つもある。スガルは抜け忍である。前半、スガルは何度も何度もカムイに助けられるにもかかわらず、カムイを殺そうとする。(数えると5回試みている)「助けるのは罠だ。私には家族がある。どんな危険の芽もとっておかないとならない」それがおそらく忍びの技以上に彼女が十数年生き延びてきた知恵なのだろう。しかし、白土三平の「語り」はこのように言う。「人を信じえない抜け忍の宿命に、その心がとらわれている限り、スガルの幸せが続くのはいつの日までか」そのようにこの原作「スガルの島」は始まるのである。

それにしても、いちばん最初の「女左エ門」は絵的にもすばらしい出来である。戦闘場面のスピィーディーさ、リアルさは今までの忍者漫画の水準を軽く超えている。歴史考証も素晴らしい。岡本鉄二の絵は完璧だ。今回「ビックコミック」で始まった「カムイ外伝 再会」によって、それがどこまで維持されているのか、あるいは変化しているのか、見届けなくてはならない。

さて、人を信じられないスガルの一方で、スガルの夫半兵衛は海で生きるものは助け合わなくてはならないという。「助け合うには、信じあわなければならない。海で生きるものは、海で死ぬ。鳥も魚も人も、みな同じじゃ。海を信じぬものはない。信じられるかどうかじゃなくて、信じることが必要なんじゃ」(映画はこの重要なせりふを採用せずにテーマを台無しにしている)そしてスガルの子供サヤカは「一目ぼれ」の力によって無条件にカムイを信じる。そして半兵衛の言葉は「抜け人カムイの心に深く響いた」と白土三平は書く。カムイがそうやって、抜け忍の宿命から抜けることが出来たかのような瞬間、そしてスガルでさえもついにはカムイを信じるに至った瞬間、抜け人仲間「渡り衆」を率いる頭の不動が実は追忍そのものであり、渡り衆ならびにスガルの家族を惨殺し、カムイをだまし討ちにするのである。もしスガルが不信感の塊であったならば、あの水がめの毒には気がついたかもしれない。しかし、死んでしまった。そこに、抜け人は単に「信じる」だけでは超えられない「壁」があることをも、白土三平は最後に見せる。「外伝」はあくまで外伝である。カムイが人を信じ、自由になり、真の幸せをつかむためには、「カムイ伝」で正助や竜の進らと共に「闘う」ことでしか実現できないことを言外に白土は言っているのではないか。わたしにはそう思えてならない。

不動の性格描写も明確である。映画では単なる残忍な人間としてでしか描かれていないが、おそらく渡り衆を信じさせるためには数年は要したはずである。それだけの計画性も必要なのである。渡り衆を全員殺したときのせりふは「愚か者らめ、それが掟を破ったものの末路よ。今こそ裁きが下ったのだ」と呟く。彼の発想は今流に言うと、「勝ち組」の発想そのものだ。また、公儀隠密を殺してカムイを助けた理由を「わしらは国元から発した追忍よ。あんな公儀の別働隊に手柄を横取りされてたまるか」という。つまり成果主義の人間なのである。彼はまさに82年の段階で「新自由主義」の思想そのもの、あるいは「資本主義」の思想そのものの人間であるときちんと描いている。映画では不動はふてきにわりとかっこよく死ぬが、漫画では本当に惨めに残酷に死んでいく。非常に現代的なテーマがあったのである。つくづく映画の失敗が残念でならない。

もちろん漫画版も完璧ではない。半兵衛が一白を手に入れる動機は分かるが、あまりにもリスクが高すぎるように思うし、不動が最初からカムイを見張っていた描写があるが、渡り衆をしながらそんなことは果たして可能だったのか、疑問であり、最後スガルは不動に千本を投げる機会があったとしたならば、どのようにしてかめに毒を入れたのかよく分からない。そういうご都合主義的な展開はある。しかし、カムイ外伝は比較的大河物語「カムイ伝」と比べてまとまっており、カムイが全面的に活躍するし、エンタメとして独立している。しかも、このあとには不動に育てられ、親の敵としてカムイを逆恨みする百日のウツセも登場する。ぜひとも映画第二段を企画してほしい。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2009年09月30日 22時45分31秒
コメント(0) | コメントを書く
[読書(09~フィクション)] カテゴリの最新記事


キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

永田誠@ Re:アーカイブス加藤周一の映像 1(02/13) いまはデイリーモーションに移りました。 …
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
生まれる前@ Re:バージンブルース(11/04) いい風景です。 万引きで逃げ回るなんて…
aki@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) 日本有事と急がれる改憲、大変恐縮とは存…
北村隆志@ Re:書評 加藤周一の「雑種文化」(01/18) 初めまして。加藤周一HPのリンクからお邪…
ななし@ Re:「消されたマンガ」表現の自由とは(04/30) 2012年に発表された『未病』は?
ポンボ@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) お元気ですか? 心配致しております。 お…
むちゃばあ@ Re:そのとき 小森香子詩選集(08/11) はじめまして むちゃばあと申します 昨日…
KUMA0504@ Re[1]:書評「どっちがどっち まぎらわしい生きものたち」(02/26) はんらさんへ 今気がつきました。ごめんな…

バックナンバー

・2024年04月
・2024年03月
・2024年02月
・2024年01月
・2023年12月
・2023年11月
・2023年10月
・2023年09月

© Rakuten Group, Inc.