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カテゴリ:邦画(11~)
「戦没画学生慰霊美術館 無言館 」
台風の一番近づいたとき、ひとつのドキュメンタリーの映画会と講演会に行ってきました。思えば、この映画の実行委員会立ち上げのための試写会があったのが3月11日でした。私は六時からの上映ということでいちおう会場まで行ったのですが、「ここで映画を見て帰りが10時過ぎるようなことになると一生後悔する」となぜか思い込んで、試写会を見ずに帰ったのでした。だから今日は純粋お客さんとして参加です。で、今日は台風。この映画には何かがあるのかもしれない。 最後の方で館主の窪島誠一郎さんは言います。「反戦ということが強調されがちだけど、私は愛の美術館だと思う。演劇や小説は憎しみがあっても描けるのです。社会に対する批判だけでも描ける。絵の場合は描けません。人や風景を愛さないと描けないのです。」若者に見せたい、と特に窪島さんは言います。二十歳そこそこで描いていった彼等と今の若者とコンタクトするものがある、と言うのです。 もっとひとつのひとつの絵の背景に迫ったドキュメンタリーだと思っていたが違った。窪島さんの無言間建設への想い、収集の苦労、無言忌のつどい、そして冒頭と最後に出てくる芸術大学の学生群像や中学生などの若者たち。それらのメッセージを伝えたかったのだろう。 製作 柳沢実 脚本・監督 宮木辰夫 監修 窪島誠一郎 企画・製作 新映株式会社 ドキュメンタリとして評するならば、冗長なフィルムが多く、ETV特集をそのまま映したとしても違和感がなかった。厳しいようだが、映画作品としては評価できない。おそらく、無言館を維持するための運動のひとつとして、作られた作品なのではないか。 このあとに窪島誠一郎さんの講演会がありました。実はこれを聴きたくて、今日は台風を衝いて来た様なものです。 初めて見る窪島さんはノーネクタイの黒いシャツの背広姿で現れ、白髪の髪はぼさぼさで一時の小澤征二に似ている。肩幅が広く、酒飲みだそうで、時々入れる冗談が良く効いていて、原稿も読まずに延々としゃべる。しかし、その言葉は文学的であり、私には根っからの芸術家のように思えた。 以下講演の要旨である。 今回の映画化には私は大反対だった。謙遜でもなんでもなく、後ろめたさ、私がこんなことをやってていいのだろうか、という気持ちからである。 無言館をなぜ作ったか、ということを今日はお話したい。 戦没画学生のことを知ったのは、30年前NHK出版が出した「祈りの画集」という本を読んだときです。そのとき、絵には感動しなかった。ただしその収集をNHKスタッフと共に行った画壇の野辺山画伯は非常につらい旅をしたのだと思った。当時は遺族がほとんど生きていた。 野辺山さんは満州から病気で帰って生き延びた。他の学友は全員死ぬわけです。野辺山さんは後に書いている。満州から帰る時、学友たちが見送りに来ていて言ったのだそうです。「生きて帰ったら、思う存分絵が描けるな」満州の窓の灯りが学友たちの命の灯りに見えたそうです。17年前に村山塊太の塊太忌のときにゲストに野辺山さんに来てもらいました。そのとき夜中の三時ごろまでお話を聞きました。「まだまだ行けなかった処が多いのも心残りであるが、あの頃でさえ絵は相当ボロボロだった。今はどうなっているのか、気が気がでない」という。このときはストレートに野辺山さんの話が心に落ちた。 一ヵ月後、私は東京の画伯のところに車で行きます。「今すぐ車に乗ってください。絵の収集に行きましよう」このときほど野辺山さんが怖い顔をしたことはなかった。「何を言うんだ。これはものすごい大変なことなんだぞ。あなたにその責任が持てるのか。第一きみは戦争体験はないじやないか。売名行為か?」その後、私の執念で四ヵ月後に一緒に収集に行きました。いまでもあのときの本当の気持ちはなんだったのか、説明できない。ただ、言えることはある。 正直、野辺山さんの学友のことはどうでもよかった。私があの晩野辺山さんの話を聞きながらしきりに思っていたのは、私の養父母のことです。 私は昭和16年生まれです。養父母は靴職人で、戦中戦後今から思うとものすごく苦労をしていたし、私を飢えさせまいといろんな手を尽くしてくれていました(感動的な話は総て割愛)。母の口癖は「戦争さえなければ私を大学に行かせてやれるのに」ということでした。私はその言葉が嫌でいやでたまらなかった。この頃私に身についたことは、世の中の九割まではカネだ、ということです。何もかもカネのものさしでしか測れなかった。でも、今になって養父母の苦労を素直に聞けなかった自分が寂しくなったのです。 (このあたり、私が推測するに、絵は当時の感覚をそのまま再現します。そしてどれだけ人を愛したかを再現する。カネのものさしではなく、絵を集めることで自分の養父母の愛を確かめたかったのではないかと思う) 私たちに与えられた命は、他者へ感動のネックレスを伝えるためにあるのではないか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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