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2011年06月15日
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「清冽 詩人茨木のり子の肖像」後藤正治 中央公論社
Yー夫の安信への愛情は、終生変わることはなかった。それは茨木の死後刊行された詩集「歳月」の中に詰まっている。この評論の中に、茨木の未公開日記の本の一部が紹介されている。それを読んで「なんて美しい日記なんだ」と思った。引用を始めたら膨大な量になるので省略する。


茨木の強い意向で、葬儀、お別れ会、詩碑などは断ったという。茨木は葬儀が嫌いだった。「日々の出会いを雑に扱いながら、永訣の儀式には最高の哀しみで立ち会おうとする人間とは一体なにか?席を変えてお酒など飲むときもしみじみ故人をしのぶでなく、仕事の話、人々の噂で呵呵大笑、あっけにとられるばかりである」だからである。「永訣は日々の中にある」というのが信条だった。そして、密葬のあと知人の向けて二百数十通、事前に茨木が準備していた「別れの手紙」が郵送された。見事だった。私もこんなふうに死んでいけたら、とふと思う。死んだら誰かに頼んでブログに「別れの記事」を用意しておこうかしら。

詩と人生がイコールで結ばれるだけではない。茨木の少女時代からの知人に、重ねてどんな小さなことでもいいから、とこのように聞いたという。「茨木の詩と茨木その人との乖離を感じたことはありませんか。また宮崎医院に住んだことにかかわって嫌な思いではありませんか」両人は頸を振る。まったくないと断言する。そう、彼女には正しい意味の品格があった。同人誌「櫂」のなかまたちは彼女の品格を愛した。現在数少ない同人の生き残り谷川俊太郎にインタビューしている。「茨木さんは一貫して自分と向き合い、きちんと書いてきた詩人ですよね。社会とも向き合ってきた。それは彼女の美質だけれど、表現されるものもまた行儀がよくて、パブリックすぎるといか、へたをすると教訓的になってしまう。」一方、谷川の元妻岸田衿子はこのように言う。「難解な現代詩の中で茨木さんの詩は平易で分かりやすいといわれてきた。でも実は、深いものを分かりやすく書くのが一番難しい。(略)一方で、わかりやすそうで難解という詩も茨木さんにはある。」茨木はカタブツ一筋というのではなかった。ユーモアを好み、自身を嗤う精神に富んでいた。人として可愛げがあった。それは散文にも見られるし、詩にも見られる。

生前茨木の出した詩集は八冊を数えるのみである。谷川俊太郎などを除けば、一般的に詩人とは到底職業として成り立つものではない。夫・三浦安信の遺族年金が月十万ほどあったらしい。不足する生活費を文筆業の収入によってまかなうことを茨木は生涯維持した。親族の援助は一切受けなかったという。純然たる詩人では稀有のことだと後藤は言う。

「清冽」という名をこの評伝につけた後藤さんの感覚を私は支持する。

現在、NHK朝のテレビ小説で「おひさま」のヒロイン陽子さんのモデルは実は茨木のり子ではないか、と私はひそかに思っている。二十歳で敗戦、それまでは軍国少女だったけど、豊かな感性とまっすぐな気性は生涯変わらなかった。鶴形荘内の出の母親が結核で亡くなるのが、のり子十一歳のとき。父はあかひげ的気質を持つ医者で、仲のよい弟は医者の道に進む。幾つかのところは違うが、いくつかのところで重なっている。育ちのよさと、まっすぐなところが茨木を見るような気がしてならない。ついついまた見てしまいそうである。





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最終更新日  2011年06月15日 17時36分05秒
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