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再出発日記

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2011年09月14日
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「遺作集 花見川のハック」稲見一良 角川文庫
かつてこの著者の「セントメリーのリボン」を私は年間ベストワンに推したことがある。それほどまでに、彼が書く小説は衝撃的だった。今回、ネット販売で古本を手に入れることが出来ると知り、三冊ほど買い込んだ。これで生涯著作全六冊のうち五冊まで読むことが出来る。

稲見一良(いなみいつら)、1931年大阪生まれ。テレビCF、記録映画の記録製作などに携わり、84年肝臓がんの宣告を受けてのち、本格的執筆活動に入る。91年「ダック・コール」で山本周五郎賞を受賞。他著に「男は旗」「ダブルオー・バック」「ソー・ザップ」など。94年逝去。

稲見一良は10年生きた。何度も手術を繰返しながら、最後のほうの「鳥」などは原稿用紙一枚、ほとんど「詩」である。それでも男として生き切った。その足跡に痺れたのだと思う。最初の頃は正調ハードボイルドで、絶望的に終わるのが多かったという。ところが、私の読んだのはそこから転調した頃の作品だったと思う。ベースにハードボイルドをおきながら、内容を大人のファンタジーに変えているのである。

この短編集は最晩年の短編ばかりを集めている。本来ならば、もっと膨らませて長編なり、中篇なりにすべきプロットが、短いセンテンスのいかにもハードボイルドっぽい文章でまとめられている。そして私たちを最後のページで飛翔させておわるのである。

「オクラホマキッド」は、映画好きという共通事項で知り合った孤児のような少年と金持ちの老作家の交友が、ふとしたキッカケで「自衛隊から戦闘機を盗もう」という遊び心を持つようになり、それを真剣に実行に移す話だ。戦闘機はまんまと盗み出す。もちろん現実では、そのまま済む話ではない。けれどもこの短編は最後の一行でそれをファンタジーと化してしまった。
「可音、オクラホマに行くぞ」

「花見川のハック」はその可音をそのまま10歳の少年のハックとして登場させ、花見川を遊び場とする話である。川沿いにつくる秘密の隠れ家。アヤメとの出会い。花見川の自然があくまでも具体的で、綿密なものだから最後の文字とおり「飛翔」が切ない。

「煙」はその花見川で、狩猟解禁の日にカモやコジュケイを撃ちに来た父子の姿をえんえんと写す。秋の早朝、父は息子に狩猟の礼儀、タイミング、取った鳥のさばき方等の技術を見せて、銃は息子に受け継がれることなどを示唆し、とづぜん最後の数行に移る。
                                     
 パパはそれから10年生きた。再発を繰返して、三度腹と胸を切った。
 パパは衰弱しきった顔でぼくを見つめながら、
「ああおもしろかった」
と一言言って死んだ。


著者は死ぬ当日の朝、娘さんに「煙」を読んで聴かせて欲しいと頼んだそうだ。ストーリーがストーリーだけに、声をつまらせ読むことが出来なかったという。        

見事なハードボイルドだったと思う。見事なファンタジーだったと思う。





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最終更新日  2011年09月14日 23時53分34秒
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