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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「ポーの一族3」萩尾望都 小学館コミックス復刻版 「ポーの一族」新章を読んだはずみで、5月に復刻版が出たというので注文してみた。残念ながら「3」しかネットの在庫がなかったのだが、そもそもシリーズそのものが時制を行ったり来たりしているのだから、これで十分だろうと思っていた。最初、一切汚れがないページをめくると「こんなのだったのかな」という気がしてしてくるけど、2頁目からはすっかり昔の気分を取り戻した。ドイツの寄宿舎(ギムナジウム)に馴染めないアランの喋るイギリス語は、この歳になって初めて意味が解った。そして、偶然この巻から始めて良かったと思った。シリーズ中で、おそらく屈指の傑作だったのである。 「だあれが殺した?クック・ロビン」 中学生の時には学園ミステリー仕立てで物語が進むので、ストーリーの構造を掴むためだけに何回か読まなくてはならなかったけど、今ならば一度読んだだけで大筋はわかった(←当たり前か)。だから、とりあえず整理してみる。 エドガーとアランは(おそらく)1948年頃にイギリスで3歳ぐらいのロビンに出会う。毎年会っていつかパンパネラ一族に加えようと思っていたが、1952年ロビンの両親は離婚して、母親と一緒にリバプールへ。1956年ごろ母親と死別したロビンは父親のカー氏がスイスに連れてゆく。カー氏は再婚して57年にロビンをドイツのギムナジウムに押し込め、イタリアに渡る。ロビンは学校に馴染めずにいじめにあい、事故か自殺かはわからないが「天使(エドガーたち)が来た」と叫んで沼に落ちて亡くなる。エドガーたちがロビンの死の真相を確かめに寄宿舎に来たのは1959年である。 キリアン・ブルンスウィッグ。東西ドイツに分かれていた頃、1950年代初めに東から難民として逃れて来た(その頃はまだベルリンの壁は建設されていない)。逃れる時に母親は殺され、父親は国境で捕まった。キリアンはディーテール家に引き取られ、やがて寄宿舎に入る。ディーテール家の長女リースが初恋の人だったが、あえなく失恋。1957年、12歳の時にロビンを追い詰めた罪の自覚で長髪、ソバカス顔になる。「ロビン、ちがう!沼地の奥まで狩られたのはぼくだ!張り出し窓で泣いていたのはぼくだ!ずっと落ちて死んで自由に逝ってしまいたかったのはぼくだ!」現在キリアンがドイツで生きているならば、おそらく71歳。ドイツ統一のために闘って来たのではないかと(勝手に)想像する。 誰がロビンを殺した?エドガーも自分を責めていた。 自分たちを忘れているんじゃないかと心配して、迎えにいくのを躊躇していたのだ。 ロビンの死の真相さえ、分かればエドガーたちにもうこの寄宿舎学校に用はなかった。しかし、一瞬の油断から温室の世話係をしていたマチアスに正体を知られる。エドガーはとっさにマチアスも仲間にする。しかし、エドガーの正体に薄々感づいたキリアンとテオがマチアスが目覚めた時に彼を消滅させてしまう。 エドガーとアランはアメリカに行った。キリアンは微かにマチアスに噛まれて仕舞う。萩尾望都はついつい書いて仕舞った。「パンパネラの血は、キリアンの体内に深く沈んで存在した。それは潜在的な因子として子孫に受けつがれてゆき‥それはもっとのちの話となる」この記述があるがために、「ポーの一族」ファンたちは、一生「続編」を待ち望む「呪い」をかけられてしまった。もちろん、私にも。その呪いは未だ解けていない。 しかし、改めて読むと「子孫に受けつがれてゆき」となると、最短でキリアンの孫の世代の話になるのである。そうなると、1970年代ならばSFとしてしか描くことはできなかった。萩尾望都が続編を書かなかったのも当然なのだ。 さて、ここでやっと本題に移る。私たちは、この学園ミステリーに隠された「最大の謎」を見落としていたのではないだろうか。 ロビンはなぜ「将来の仲間」として選ばれたのだろうか。パンパネラ始祖の血を引き継いだエドガーはしかし、仲間を作った(血を送った)のは、緊急避難のマチアスを除けばエドガーの妹メリーベルとアランのみだ。それ程に仲間入りは大量のエネルギーが必要なので、大きなことなのである。アランは、メリーベルに似た写真の入っている懐中時計を沼に落として叫ぶのである。 「学校にくるの、最初から気にくわなかったんだ!メリーベルだって、ロビン・カーだって、どうでもいいじゃないか。ぼくのことだけ考えてくれなけりゃいやだ!」 ここからわかるのは、ロビンの仲間入り方針はエドガー主導だということである。なぜ3歳の頃からエドガーはロビンに執着したのか。 やはり考えられるのは、ロビンの母親が特別だった、ということなのではないか(父親は生きていて、何もしていないので母親の方だろう)。何らかの事情で母親は仲間に入れることはできなかった。ならば、子どもを、ということなのではないか。ということならば、エドガーと母親が出会っているのは、1940年代のイギリスということになる。その頃のエドガーは何をしていたか。 そう、まさに「ポーの一族」の新編「春の夢」は、その時代の物語なのである。ロビンの母親の旧姓が「3」では明らかでないのも、示唆的だ。 私はここで預言しよう。「春の夢」は「小鳥の巣」の前日譚である。 もう一つ言えば、キリアンの孫が14歳になっているとすれば、正に2016年の現在かもしれない。となれば、もうSFではない形で、あの夢見た「続編」が拝めるかもしれない。 produced by 「13日の水曜日」碧猫さん お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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