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再出発日記

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2018年09月03日
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「少年が来る」ハン・ガン(韓・江) 井手俊作訳 クオン出版

ある書によれば、「光州事件」を扱った日本で出版されている長編文学は、この本とあと一冊しかないらしい。ルポや資料集は幾つもあるのであるが、隣国の、しかもたった38年前のあれほどの出来事を描いた「文学」がほとんど出版されていない。これは日本の文学にとっても不幸だろう。なぜならば、これを読んでみたらある程度は納得するはずだ。人民戦線の体験が、ヨーロッパの文学を鍛えたように、この未曾有の人類史的な悲劇の内面を体験する機会を、隣国の日本人は持つことが出来ないからだ。

わたしは日本に入ってきた映画は全て観ている(「ペパーミントキャンデー」「光州5.18」「タクシー運転手」それでもたった3つ)。ところが、それだけではこの出来事の「ホントの姿」は見えていなかったのだと知った。

ありきたりのボールペンでした。モナミの黒のボールペン。それで指の間を縫うように挟み込みました。
そりゃあ左手ですよ。右手では調書を書かなくてはいけないから。
ええ、そんなふうにひねりました。こっち側もこんなふうに。
最初は何とか我慢できました。でも、取り調べのたびに指の同じ部分をそうするものだから、傷が深くなりました。血と粘液が混じって流れました。後になると、この部分に白い骨がのぞき見えました。骨が見えるようになると、アルコールに浸した脱脂綿をそこに挟むんですよ。(略)私もそう思いました。骨が見えるくらいになったのだから、そこはもうやめるだろうと。ところが、そうじゃありませんでした。さらに苦痛を与えると分かっていながら、脱脂綿を外してからもっと深くボールペンを挟んでひねったんです。(129p)

思い出してほしいとユンは言った。記憶と真っ直ぐに向き合って証言してほしいと言った。だけど、そんなことが果たして可能だろうか。
三十センチの木の物差しで、子宮の奥まで数十回もほじくられたと証言することができるだろうか?小銃の台尻で子宮の入口を破られ、こねくり回されたと証言することができるだろうか?出血が止まらずショック状態になったあなたを彼らが総合病院に連れていき、輸血を受けさせたと証言することができるだろうか?二年もの間その出血が続いたと、血栓が卵管をふさいで永久に子どもを持つことができなくなったと証言することができるだろうか?(204p)

15歳の同級生を探して、トンホは危ないと分かっていながら夜の尚武館に入る。その彼の視点。遺体さえ見つからない同級生チョンデの死んだ魂からの視点。冒頭の2人の視点からの描写は、全斗煥の軍隊が無辜の市民を虐殺し通した事を私たちに教える。舞台は県庁前広場や大通りだけではなかったのだ。やがて尚武館に居た3人の若者のその後の人生を見せる後半。光州民主化抗争の当時だけでなく、その後の何十年間も、彼らを苦しめるその内実を、しかし私は想像さえしていなかった。

わたしたちは知る必要がある。隣国のこの人類史的な悲劇を。





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最終更新日  2018年09月03日 08時31分06秒
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