後半の四作品です。特に「沖縄スパイ戦史」はこの時点マイベスト出ました!
「沖縄スパイ戦史」
とりあえず、いまのところこの作品がマイベストワンです。戦後73年目の夏。ギリギリのタイミングだった。当時14歳から18歳の少年たちが証言をするのは、1年遅ければ何人かが語れなくなったかもしれない。絶妙のタイミングだった。当時、軍人に協力した住民たちがいなくなったからこそ、口を開き始めた人もかなりいたと思われる。必要なタイミングだった。今沖縄南西諸島に次々と配備されるミサイル基地。自衛隊基地が出来てしまえば、「軍隊は住民を守らない」だけではない。有事が近づけば「住民を利用」し、「住民を監視」することが、正にその場所で、たった70数年前に起きた。しかもたった1年足らずで。
純粋な中学生ぐらいの子供を徴用する。スパイとして有効に使えるだけではない。子供を人質に使えるのである。陸軍中野学校の恐ろしいほどの、これはスパイ戦術ではない、人非人の戦争技術である。おそろしい。
有事法制で、特定秘密保護法で、しだいと可能になっている。昔の再現なんてあり得ない、という保証はどこにもない。自衛隊の最高法規「野外令」を見る限り、沖縄の出来事を一切反省していないのは明らかである。波照間島の住民を1/3、500人近くを強制移住させてマラリヤ感染で死亡させた山下(偽名)も、一切反省の言葉を語らなかったではないか。波照間島の碑文が強烈である。「山下(偽名)のことを赦しはしても、決して忘れない」。公の碑文にこんな文句を見たのは、私は初めてだ。
また、住民をスパイ疑惑で、軍人に密告したと思われる人が雄弁に語ったフィルムを、この映画は記録している。「あの時代は、殺さなかったら殺される。貴方とは認識が違う!」恐ろしい。過去の話ではなく、現代のこととして、とてつもなく恐ろしいドキュメンタリーが出来上がった。
岡山では、一週間の上映期間しかなかった。ほとんどの日本人は観ていないことになる。大勢の「日本人」に観てほしい。
(解説)
第二次世界大戦末期、米軍が上陸し、民間人を含む20万人余りが死亡した沖縄戦。第32軍・牛島満司令官が降伏する1945年6月23日までが「表の戦争」なら、北部ではゲリラ戦やスパイ戦など「裏の戦争」が続いた。作戦に動員され、故郷の山に籠って米兵たちを翻弄したのは、まだ10代半ばの少年たち。彼らを「護郷隊」として組織し、「秘密戦」のスキルを仕込んだのが日本軍の特務機関、あの「陸軍中野学校」出身のエリート青年将校たちだった。
1944年の晩夏、42名の「陸軍中野学校」出身者が沖縄に渡った。ある者は偽名を使い、学校の教員として離島に配置された。身分を隠し、沖縄の各地に潜伏していた彼らの真の狙いとは。そして彼らがもたらした惨劇とは……。
長期かつ緻密な取材で本作を作り上げたのは、二人のジャーナリスト。映画『標的の村』『戦場ぬ止み』『標的の島 風かたか』で現代の闘いを描き続ける三上智恵と、学生時代から八重山諸島の戦争被害の取材を続けてきた若き俊英、大矢英代。
少年ゲリラ兵、軍命による強制移住とマラリア地獄、やがて始まるスパイ虐殺……。戦後70年以上語られることのなかった「秘密戦」の数々が一本の線で繋がるとき、明らかになるのは過去の沖縄戦の全貌だけではない。
映画は、まさに今、南西諸島で進められている自衛隊増強とミサイル基地配備、さらに日本軍の残滓を孕んだままの「自衛隊法」や「野外令」「特定秘密保護法」の危険性へと深く斬り込んでいく。
2018年8月25日
シネマクレール
★★★★★
http://www.tongpoo-films.jp/OSS_B5_H14_Z.pdf
「グッバイ・ゴダール」
題名になっているのだから、彼女とゴダールが別れるのはもちろん、その理由さえも途中までで明らかであり、なんの驚きもない。
ゴダールをリスペクトしながらも、カリカルチャしているのは予想出来るのであるが、なにしろ私はゴダール作品を一作とも観たことがない。よって、批判しているのか、からかっているのか、わからない。また、それがわからないので、日本よりも遥かに本格的だと聞いていたフランス五月革命について、批判しているのか、冷めた目で見ているのか、それが正しいのかもわからない。当然ゴダールのとる態度もわからない。
もう一つの見所は、当時のファッション、音楽、映画についてだろうが、どれだけ再現性が素晴らしいのかもわからない。
もう一つの見所は、「映画とは何か」ということだろうと思う。一つの自動車の中での6人の延々800キロに及ぶケンカの場面は、いかにも映画らしいシチュエーションであり、裸になる必然性が台詞に出た途端に2人が完全ヌードを披露するのは、正しく必然性を伴うだろうが、映画文法の使い方である。上手いと思う。しかしだからと言って、素晴らしいことにはならない。私にとって素晴らしい作品は、あくまでも共感出来るテーマが如何に緊張感持って2時間前後の枠の中に納めさせるか、ということだからだ。それによってのみ、私は映画の魔法を感じる。
この作品のテーマを「映画とは何か」だとすれば、いろんな点でわからないことが多すぎ、判断出来ないということになる。
主演女優の魅力はあった。
(解説)
ジャン=リュック・ゴダール監督作『中国女』で主演を務め、彼の妻となったアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝的小説を映画化。若くしてゴダールと出会い、ミューズとなったアンヌが彼と過ごした刺激的な日々を描く。アンヌ役に『ニンフォマニアック』シリーズなどのステイシー・マーティン、ゴダール役に映画監督フィリップ・ガレルの息子ルイ・ガレル。『アーティスト』などのオスカー監督ミシェル・アザナヴィシウスがメガホンを取った。
(あらすじ)
パリで哲学を学ぶ19歳のアンヌ・ヴィアゼムスキー(ステイシー・マーティン)は、映画監督のジャン=リュック・ゴダール(ルイ・ガレル)と恋に落ち、彼の新作『中国女』で主演を務める。新しい仲間たちとの映画作りやゴダールからのプロポーズなど、初めて体験することばかりの刺激的な日々にアンヌは有頂天になる。一方パリでは、デモ活動が激化していた。
(キャスト)
ルイ・ガレル(ジャン=リュック・ゴダール)
ステイシー・マーティン(アンヌ・ヴィアゼムスキー)
ベレニス・ベジョ(ミシェル・ロジエ)
ミシャ・レスコー(ジャン=ピエール・バンベルジェ)
グレゴリー・ガドゥボワ(ミシェル・クルノー)
フェリックス・キシル(ジャン=ピエール・ゴラン)
監督・脚本・製作
ミシェル・アザナヴィシウス
2018年8月25日
シネマクレール
★★★★
「カメラを止めるな!」
最初の全体の1/3のノーカットワンテイクのゾンビ映画は、正にB級ゾンビ映画であって、この後どんな仕掛けが来ても(「この映画は2度始まる」というのが作品の謳い文句)、この1/3がある限りダメだな、と思っていたのだが、一応それさえも伏線だったというのは、まあまあのアイデアでした。
ともかく話題の作品なので、チェックするのが私の義務です。結果は、悪くはないんだけど、今年を代表する作品かというとそうでもない。というとっても中途半端な評価になりました。
どうしても、低予算の限界というのがあって、クオリティは低くならざるを得ないのです。でも300万ではなくて、一千万近くかけたぐらいのクオリティは持っています(あの大阪のおばちゃんプロデューサーはよかった)。よくがんばっている。演技(特に劇中主演女優の演技)、ロケハン(もっと仕掛けが欲しい)、脚本等々少しだけ詰めが甘い部分がある。
(解説)
監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールの《シネマプロジェクト》第7弾作品。短編映画で各地の映画祭を騒がせた上田慎一郎監督待望の長編は、オーディションで選ばれた無名の俳優達と共に創られた渾身の一作だ。国内では「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018」でゆうばりファンタランド大賞(観客賞)を受賞。無名の新人監督と俳優達が創った”まだどこにもないエンターテインメント”を目撃せよ!
監督 上田慎一郎
出演 濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき
http://kametome.net/index.html
2018年8月30日
TOHOシネマズ岡南
★★★★
「検察側の罪人」
思いもかけず骨太だった。アイドル映画の欠片もなかった。木村が悪ぶった善人という何時もの役割じゃない、闇を深くする役割をしていつもの大根役者の悪い所があまり見られなかった。
正義とは何か。
検察はストーリーを作って、罪人を仕立てる。それが検察のやり方である。そう教え込めれた沖野は、しかし最後は反対の方向に行く。
「こうやって冤罪は作られてゆくのね」立花さんが呟き冤罪の構造そのものをくっきり浮かばせた。骨太の映画だったという所以である。映画的な行き過ぎの趣向は、そのおまけみたいなものだろう。
原田眞人監督だということを失念していた。しかし毎年毎年自ら脚本まで書いて、よくも作るものだ。いかにも映画的な映画でした。顧みれば、原田眞人監督はいつも「正義」をテーマにしている。「八月の1番長い日」「関ケ原」如りである。
(解説)
ある殺人事件を巡り、2人の検事の対立を描く。都内で発生した殺人事件。犯人は不明。事件を担当する検察官は、東京地検刑事部のエリート検事・最上と、刑事部に配属されてきた駆け出しの検事・沖野。最上は複数いる容疑者の中から、一人の男に狙いを定め、執拗に追い詰めていく。その男・松倉は、過去に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の最重要容疑者であった人物だ。最上を師と仰ぐ沖野は、容疑者に自白させるべく取り調べに力を入れるのだが、松倉は犯行を否認し続け、一向に手応えが得られない。やがて沖野は、最上の捜査方針に疑問を持ち始める…。
監督 原田眞人
出演 木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、平岳大、大倉孝二、八嶋智人、音尾琢真、大場泰正、谷田歩、酒向芳、矢島健一、キムラ緑子、芦名星、山崎紘菜、松重豊、山﨑努
2018年8月30日
TOHOシネマズ岡南
★★★★
http://kensatsugawa-movie.jp/sp/index.html