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再出発日記

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2019年04月02日
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「火の鳥 黎明編(下)」手塚治虫
手塚の黎明編は、一度「マンガ少年」によって連載され、その廃刊で未完に終わった。手塚は約10年後に構想新たに描き切る。それは、脂の乗り切った時期の手塚治虫自身も満足できる作品だったろうと思える。壮大なテーマ、いまだかって描かれなかった弥生時代末期の歴史大河漫画、数人の魅力的キャラの創設、戦争という大スペクタクルと洞窟の中の静という緊迫した並行ストーリー。更にはシリーズの1巻目として、見事にその後に続く物語にもなっている。

以下、今回再読して気がついたことをいくつか。


・「俺たちは生き埋めだ。おれたちの子も、このけものたちも、みんな生き埋めだ‥‥」阿蘇山の火山の爆発で、グズリとヒナクの家族と数十体の動物は光の差さない洞窟に生き埋めになる。(集団ではなく)1組の男女が隔絶された環境で何十年も生きるというのは、日本では、おそらく手塚治虫だけが繰り返し描いたテーマだ。科学の目で人類としての人間を正面から描く手塚だけが、描くことが出来たからかもしれない。しかも、この黎明編では、動物たちは、狼さえも生きている生き物を襲うことなく、協力して出口を探していることを描いている。外では、人間同士が殺し合っているのに、である。


・弓彦という天才的な狩人によって、火の鳥は1巻目にして「殺され」首を切り取られる。この火の鳥を巡って、対照的な権力者が描かれる。永遠の命を欲しながら死んでゆくヒミコと、永遠の命よりも「征服者の我が名を子々孫々まで伝えること」を願うニニギという高天原族の男(神武天皇)。生命をめぐる価値観の見事な相対化。


・上巻でも容赦ないクマソ侵略の戦争が描かれたが、下巻ではいよいよ「戦争」そのものの正体を容赦なく描いた。それはマンガとしては「見せ場」でもある。明らかに手塚は黒澤の「七人の侍」を意識している。職人肌の弓彦の描き方、戦いの始まる前の静かさ、土砂降りの中の騎馬戦、主人公たちが次々と死んでゆく様。黒澤では正義が勝ったが、手塚は外国からの侵略者(騎馬民族)が勝つという理不尽を描く。因みに、手塚が採用したのは大江氏の「騎馬民族国家論」だと思うが、現代の学説では否定されている。




・上巻で使われた舞台装置や映画的カット割はこちらでも使われたが、それ以外にも、でれでれする猿田彦を線が崩れていく様で表したり、逆光だけで数ページ描いて見せる実験もしている。


・戦争の本質も描く。ニニギとの不利な戦いが近づいた時にクマソ族のナギが参戦してくれて、かつてクマソを滅ぼしたヤマタイ国の女性たちは泣く子を抱えながらナギに聞く。「ホントにおんな子供たちまで殺されたの?理由もなく?うそだ!わたしたちがそんなむごいことをするはずがない!」ナギは言う。「たしかにお前たちの軍隊がやったことだ。今度はお前たちがその番に回ってきたんだぜ」。現代の若者は他人事のように読むかもしれないが、当時のお母さんたちには、(少女のころ戦争が終わっているので)堪えるセリフだったはずだ。


・クマソはヤマタイに負け、ヤマタイはニニギに負ける。勝者が勝利者なのか?それが人間の真実なのか?火の鳥の生き血さえ要らないと言ったニニギは、真のヒールヒーローのように見える。しかし、ニニギさえも打ち負かすのが、猿田彦の子供を身ごもったウズメのセリフである。「女たちには武器がある。勝ったあなたたちの兵隊と結婚して、子供を産み、その子を育て、いつかあなたたちを滅ぼすわ」歴史的にも、そうやって権力者の栄光は決して永遠には続かない。こんなにも見事に戦争を描いた漫画は、実は私は今、他には思い起こすことが出来ない。


・「かあちゃ、あの空の向こうには何があるの?」「世界が」。水と日光を手に入れて、洞窟の中で10数年を生き続けてきたグズリ親子は、しかし「生き長らえるだけ」で人間として納得しない。子供たちは、いつか命をかけた挑戦をして、世界を見るだろう。見事なラストシークエンスである。





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最終更新日  2019年04月02日 09時46分42秒
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