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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「刑事の子」宮部みゆき 光文社文庫 宮部みゆきの文庫本は、エッセイとアンソロジーと絵本とボツコニアンシリーズを除けば、全て読んでいるという自負を持っていた。だから、読書サイトの著書一覧で検索しているときに、未だ読んだことのないこの題名を見つけた時には、悔しいというよりか不思議だった。ーーいつ見落としたんだろう? それで図書館で予約して読み始めたのであるが、表紙を開けた途端に了解した。『東京下町殺人暮色』を改題していたのである。94年に文庫本が出たときに、あの頃は速攻で買って読んでいるはずだ。読み始めて微かな記憶はあったが、大まかな所は流石に全て忘れていて、問題なかった。こんなことがないと、昔読んだ本の再読なんて滅多にしない。 初出は90年、長編第3作目、著者最初の書き下ろし、舞台はバブル真っ盛りの89年末、著者のホームグラウンドの江東区だ。刑事は中年のいぶし銀を出していて、中学一年の息子は正義感が強くて純粋で賢い。初期の宮部みゆきの鉄板だ。最近は、宮部が描く高校生は純粋とは言えなくなることが多くなった。刑事は主役級では登場しない。きっかけは『模倣犯』だった。この作品と同じで、女性の連続殺人事件が起きて、テレビが追って世間を騒がす構造だった。しかし、本作で簡単に扱われている殺人者の描写を徹底的に描いたお陰で、宮部みゆき本人の精神もかなりやられたようだ。でも、犯人描写を避けてはもう現代サスペンスは描けない。著者が杉村三郎シリーズを始めた所以である。 その最初のきっかけを作ったのが、この作品の冒頭、荒川河川敷の公園にバラバラ死体のビニール袋詰がたどり着いたことだったのである。 著者の作品の中で東京大空襲がサブテーマとして扱われた最初でもある。と今になってわかる。いや、もしかしたらメインテーマだったかもしれない。 80pに、順少年が、隅田川河口に建設中の高層マンションを「下町を見下ろす巨大な監視塔」と感じるところがある。(冗談抜きに、いつかは本当に監視塔みたいなものを作って、犯罪を防がなくちゃならない時代がくるかもしれないな)と呟く。それから30年後の今、ひとつの監視塔ではなく、無数の監視機によってその予想は実現しているけれども、犯罪は一向になくならない。宮部みゆきが人の心の闇を描き続ける所以でもあるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年10月16日 12時09分28秒
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