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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「月の満ち欠け」佐藤正午 岩波文庫的 これは読もうと決めていた。『図書10月号』の「こぼればなし」に、「岩波文庫的」という名称を使ったことの顛末を書いていたからである。初めての岩波書店の直木賞受賞作を、発行後2年半経っただけで「長い時間の評価に耐えた古典を収録する叢書に、みずみずしいこの作品を収録するのは尚早」ということで、「いたずら心で」で使ったらしい。(何故「的」の言葉を選んだのかというのはさて置き)そういう仕掛けは大好きなので、話のタネに読んで置こうと思っていた。ところが、予想以上に岩波書店はこの文庫本の発刊に力を入れていた。本屋で手に取ると、帯に『選考委員を唸らせた熟練の業が、「岩波文庫的」に颯爽と登場。』と岩波文庫的に難しい漢字を多用して煽っていたのだ。だけでなく、中に作者ミニインタビューの特別チラシまで入れているし、普段解説を書かないのに例外的に伊坂幸太郎が解説を書いていると思ったら、なんと『解説はお断りします』という編集者宛メール文をそのまま載せて解説の替わりにするというアクロバット式の解説を書いていた。 読んだ。とーっても面白かった。アクロバット式の小説「的」な仕掛けが随所にある。 メインの話は、小山内さんという還暦過ぎの男が、青森から東京駅に出向いて、ある人に会ってまた帰っていく間の2時間と少しのお話である。その間に登場人物たちの過去が次第に明らかになってくゆく。倒叙方式のサスペンスにもなるし、SFファンタジーにもなるが、そういうわかりやすい結末は排除している。「熟練の業」で余韻残る「お話」を作っていたのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年10月22日 00時35分13秒
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