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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「カゲロボ」木皿泉 新潮社 そんなとき、突然、「なに見ているのよッ」と声をかけられたのだった。チカダには、不機嫌そうな顔でにらんでいるその女子が、生々しく思えた。ようやく生きている者に出会えたと思った。しかし、それでもまだ本物かどうか確信を持てなかった。オレをだまそうとそうとしているのではないか。やっぱりすべては、映画のようにスクリーンに映った幻のようなものではないか。チカダは、そのまやかしのスクリーンを切り裂いて、その向こうにある本当の世界を見たかったのだ。切りつけるというより、目の前にあるホットケーキのような太股に線を引くようにカッターナイフを走らせただけだった。(197p) 今朝、14歳の少年が小さな女の子をカッターで切りつけたというニュースを見た。「誰でもいいから殺すつもりだった」と言っているらしい。この「あせ」という短編とのつながりは一切ない。けど、この近未来を描いているような不思議な短編集は、今朝のニュースを見たあと「つながっている」と思った。 読む前は、リード文を読んで近未来の監視国家を描いた小説かと予想していたが、違っていた。近未来ではない、もっと広く、そして深刻な「現代」の「傷ついた人たち」を描いていた。 全ての短編に通じているのは、何故か日常の中に変なロボットが存在している「らしい」ということが描かれていることだけだ。それは、大抵は一つの回答のない問題を解くための「1本の補助線」である。いじめにしても、社会福祉にしても、運命にしても、それはいつもそれ「らしい」けど、よくわからないものだ。 カッターの少年のホントの「心」はわからない。けれども、チカダのようなお父さんが居れば良いな、と思った。 2019年11月14日読了 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年11月15日 11時48分16秒
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