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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「小僧の神様他10篇」志賀直哉 岩波文庫 申し訳ないが、短編「流行感冒(1919年3月発表)」のことしか書かない。これが、直近のパンデミックであるスペイン風邪を扱った日本文学史上2つしかない作品のひとつだからである。同じ白樺派でも、武者小路実篤「愛と死」とは、全然違う素晴らしいものであった。 同じ金持ちのボンボンなのに、どうしてこんなにも細やかに生活を描けるのだろう。前者はほぼ創作だったが、こちらは本人曰く「事実をありのままに書いた」(あとがき)らしい。「この小説の左枝子という娘の前後二児を病気でとられた私は、この子供のために病的に病気を恐れていたのだ」(同)らしい。 1918年秋、流行感冒(おそらくスペイン風邪)が、千葉県の(田舎の村と言っていい)我孫子に近づいた。主人公は、医師が勧めるのに運動会に娘を行かせない。お陰で感染者は多く出たらしいが、家の中は免れる。女中を町にやるときでも、店で無駄話をさせない。芝居興行にも行くことも禁じた。‥‥ここまでは、志賀直哉自身は「私は暴君なのかもしれない」と書いているが、現代の我々からすると全く正しい科学的な対応だと言わざるを得ない。流石、志賀直哉は知識階級である。むしろ、嬉々と運動会や芝居をみる我孫子村民の方が非常識なのだが、専門書を読むと、日本全国そうだったから42万人もの人々が亡くなったのである。我孫子では、この小説内では300人規模の製糸工場でクラスター感染が起きて4人亡くなったらしい。 小説構成は、厳しく禁じていたのに、芝居興行に女中の石が「嘘をついて」出かけたことから展開される。主人公は石に暇を出そうと決心するが‥‥。 石のせいではなく、結果的に主人公がインフルエンザに罹患すると、次々と家族が罹っていくのであるが、石という大人になり掛けの少女の胸の内が一切書かれていないのにも関わらず、ありありと想像できるように描かれていていて感心した。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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