6834664 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

再出発日記

再出発日記

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

フリーページ

カテゴリ

お気に入りブログ

「パリの日々」1 New! Mドングリさん

ゴジラ-1.0★第96回ア… New! 天地 はるなさん

合同誕生会 New! はんらさん

「古典推し」を観ま… New! まろ0301さん

同性カップルと憲法 New! 七詩さん

カレンダー

2020年09月05日
XML
テーマ:本日の1冊(3685)

「白土三平伝 カムイ伝の真実」毛利甚八 小学館文庫

単行本刊行から9年も経って今年2月やっと文庫本が出た、ということを最近知った。白土三平研究という分野がもしあるとすれば、唯一の伝記評伝である本書を今さら出すのか、とも思うが、ちょっとした未収録文書もある決定版である。毛利甚八さん(名作「家裁の人」原作者)が急逝して5年経つ。もはや、白土三平翁からこれ以上のことを聴ける人物は存在しない。毛利甚八自身の再評価も、されるべきだと思っている。

父親でプロレタリア画家の岡本唐貴の人生をなぞるかのような白土三平の人生、そして仲間や白土三兄弟が欠けても次々とマンガが生まれる人生は、名作「忍者武芸帳 影丸伝」や「サスケ」の内容と被っている、ということは既に書いた。だとすれば、まるで影丸のように誰ひとり知られることなく有名漫画家白土三平が今年や来年に亡くなっていたとしても、わたしは全然驚かないだろう。(どう被っているのか、詳しくは、単行本「白土三平伝」(小学館)  「岡本唐貴自伝的回想画集」(東峰書房)のマイ書評を参照してください)

ここでは、新たに加わった文章その他に対する私の感想を述べたい。

毛利甚八さんは「白土三平フィールドノート」を連載していた頃の雑誌「ビーパル」のライターとして、白土三平と知り合う。そこで「影丸伝」の影丸の顔のモデルは、ロシア画家が農民一揆の指導者・ステンカ・ラージンを描いたものを参考にしたと聞き出している。
「全共闘の若者が『忍者武芸帳影丸伝』や『カムイ伝第一部』に圧倒されたのも(そして後にはその重苦しさに反発していくのも)、権力とはなにかを問い続け、その姿を執拗に描いていく白土三平の動機が、学生たちとは比べものにならないくらい切実で、それを見極めたいと願う心が学生たちよりもはるかに純粋だったからだろう。なぜなら、白土三平(岡本登少年)にとって、権力とは想像上の概念ではなかった。その目から逃げまどう対象として、父に怪我をさせた当事者として、彼が物心ついた時から実在する怪物だったのだ」(216p)
白土三平の描く権力の巨大さや強かさは、『カムイ伝第二部』でも出てきている。

毛利甚八さんは神話伝説シリーズの『サバンナ』や『バッコス』を大きく評価している。同感である。いつか再読したい。

「『カムイ伝第三部』への展望」という一章がある。ここが今回文庫本に新たに付け加えられたようだ。「白土流のユートピアの総決算が、読者諸兄の前にあらわれることになるはずだ」と著者は勿体ぶって書いているが、新しいことは一つもなかった。そもそも、わたしは第三部は絶対に現れないと思っている。影丸一族は、白土三平1人を残してみんな霧散霧消した。圧倒的な画力を持っていた弟の岡本鉄二もいなければ、次々とアシがプロとして独立していった後のスケジュールを調整すべき弟のマネージャーも既にいない。11年前に白土三平は試しに独力でカムイ外伝の中篇を描いてみたが、デッサンは狂っているは、ストーリーは以前の物語の焼き直しで尚且つ新しい試みも一切なかった。当然この80pほどの作品「カムイ外伝 再会イコナ」は未だ単行本化されていない。白土三平の漫画は、ストーリーと画を総合的に統一して作るものだった。その総合力が既に破綻しているのである。第三部への構想は何処かにあるのかもしれないが、いくら画力のある者が見つかっても、赤目プロがそれを描くことはないだろう。

今回加筆部分含めて再読して、著者との気まずい別れからの仲直り、元アシ小島剛夕との和解部分は、改めて感慨深く読んだ。著者は書く。
「思えば、筆者である私が一匹狼として生きてきたために、私は白土三平の、組織のリーダーとしての一面を書き落としてきた。自分の印税で「ガロ」を創刊し、多くのマンガ家をデビューさせたことも、講談社児童まんが賞の審査委員として水木しげるや永島慎二、石森章太郎の受賞に力を尽くしたことも、白土さんが岡本唐貴から受けついだ家長の性質からくる「優しさ」や「包容力」の表れ。しかし、白土さんが自慢話を嫌がることもあって、私はそれを充分に書いていない。「白土三平は、なんてカッコイイ男なんだ」私は79歳になった白土さんに、あらためて目を瞠ったのだ」(241p)白土三平は、今年喜寿を過ぎたという(今年4月に喜寿記念の短編集が出ていた)。
リーダーや家長としての白土三平と、マンガがどうリンクしているのかは、私の書評もいくらかは追い求めた。もっと詳しいことは、やがてくるであろうXデーを機に大いに研究されるだろう。そうでなくてはならない。そうではなくては、白土三平を中心として世界史的に異質に発達した日本の初期劇画の本質がわからないままになるからである。私自身の課題としては、「カムイ伝第二部」の再読・再評価を早々に終わらせなければならない。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2020年09月05日 14時50分37秒
コメント(0) | コメントを書く
[読書(ノンフィクション12~)] カテゴリの最新記事


キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

永田誠@ Re:アーカイブス加藤周一の映像 1(02/13) いまはデイリーモーションに移りました。 …
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
韓国好き@ Re:幽霊が見えたら教えてください 韓旅9-2 ソウル(11/14) 死体置き場にライトを当てたら声が聞こえ…
生まれる前@ Re:バージンブルース(11/04) いい風景です。 万引きで逃げ回るなんて…
aki@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) 日本有事と急がれる改憲、大変恐縮とは存…
北村隆志@ Re:書評 加藤周一の「雑種文化」(01/18) 初めまして。加藤周一HPのリンクからお邪…
ななし@ Re:「消されたマンガ」表現の自由とは(04/30) 2012年に発表された『未病』は?
ポンボ@ Re:書評「図書館の魔女(4)」(02/26) お元気ですか? 心配致しております。 お…
むちゃばあ@ Re:そのとき 小森香子詩選集(08/11) はじめまして むちゃばあと申します 昨日…
KUMA0504@ Re[1]:書評「どっちがどっち まぎらわしい生きものたち」(02/26) はんらさんへ 今気がつきました。ごめんな…

バックナンバー

・2024年03月
・2024年02月
・2024年01月
・2023年12月
・2023年11月
・2023年10月
・2023年09月
・2023年08月

© Rakuten Group, Inc.