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2020年09月30日
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テーマ:本日の1冊(3685)

「眩(くらら)」朝井まかて 新潮文庫


藤沢周平の次の時代小説の担い手は朝井まかてかもしれない。

私はまかてのファンでは無い。読了もこれが3冊目だ。1冊目は、直木賞受賞直前で、「恋歌」の読者モニターで感想を送ってサイン本さえ頂いてはいるが、ファンにはならなかった。もちろん傑作だったが、女性の情念には私はのめり込めない。

それでも、これは「恋歌」よりも更に一歩踏み込んだ傑作だと思う。一頁一頁の書き込みが、そんじゃそこらの他の作家の比では無い。「自分は親父どの(北斎)の才能を引き継いでいない」と自覚しながら、のめり込まざるを得ない美の世界への執着を、これでもかと描いている。ドラマでは美人の宮崎あおいが力演していたのだが、私は北斎美術館のリアルなジオラマのお栄を見ている。痩せていて顎がしゃくれてお世辞にも美人とは言えなかった。コンプレックスを情熱に換えて、彼女は焔の見せる緋色と闇の中の光と影に美を見出す。それを表現する。その過程の描写にやはり、私は藤沢周平を想起した。

冨獄三十六景。小説では、お栄は失恋し、北斎は孫の時太郎の不良化に悩み、板元の西村屋は大火事で焼け出され、それらが末の逆転劇として描かれている。大判錦絵。
「景色に金子を出す物好きなんぞ、いやしねぇよ。三代目は自前で打ってでるらしい」
「正気の沙汰じゃねぇな。葛飾親父も三つ巴印の泥舟に乗せられなすって、気の毒なこった。情に流されてとうとう一緒に沈みなさるか。なんまいだぶ」
事前の評判は最悪だ。けれど北斎が提示した10枚に魅力されて彫り師も、摺し師も、当時の名人が集った。西村屋はそれを見て三十六景を提案する。
最初の刷りは、神奈川沖浪裏。今や、北斎のアイコンである。錦絵は、版木は8枚使われる。北斎も、8枚に色指定をしながら描かなくてはならない。それを寸分違わず彫り、寸分違わず摺る。それを三十六景仕上げる。全て富士山の絵で、趣向を全て変えて。今でこそ、我々は文庫本(岩波文庫)で観ることはできるが、当時としては大博打で、しかし、北斎の天才がなければ無理の趣向だったことは間違いない。初板摺が二百枚だった「冨獄三十六景(実際は四十六景)」は、5年後には軽く万を超えたらしい(とは言っても重版出来で潤ったのは西村屋だけらしいが、北斎の名前は売れた)。そして、細かいところはお栄が描いた。

文庫表紙にもなっているお栄の代表作「吉原格子先之図」。安政の大地震で浅草の山之宿町に移った、新吉原の図とは知らなかった。西洋画の陰影も取り入れながら、浮世絵しか描けない真実を描く。「命が見せる束の間の賑わいをこそ、光と影に託すのだ」くらくらするような傑作である。





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最終更新日  2020年09月30日 14時20分49秒
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