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カテゴリ:読書フィクション(12~)
「新釈 走れメロス」森見登美彦 祥伝社文庫 京都の森見登美彦は博学多才、平成時、若くして名を小説界に連ねたが、性、変態、自ら恃む所頗る厚く、有名に甘んずるを潔しとしなかつた。 「祥伝社編集者に誘われたる古典換骨奪胎」 「さようでございます。寺町通の地下のある喫茶にて、あの企画を提案したのは、わたしに違いございません」(渡辺某の証言) 森見登美彦は躊躇った。必ずこの様な古典的名作の改変を怒る輩が出現すると確信した。しかし引き受けた。渡辺某の提案に抗えなかった。孤高の腐れ大学生を主人公に「山月記」を書くという魅力的な話に抗えなかった。 森見登美彦というと、人々が酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれた物語(はなし)ばかり書くと思われているが、それは嘘です。コレはかなり恐ろしい小説なのです。 勿論生れて始ての事であったが、これから後も先ずそんな事は無さそうだから、生涯に只一度の出来事に出くわしたのだと云って好かろう。それは森見登美彦が「新釈 走れメロス」を書き終えた時である。 小説に説明をしてはならないのだそうだが、間違いは誰にもあるもので、この話でも万一ヨオロッパのどの国かの語に翻訳せられて、世界の文学の仲間入をするような事があった時、余所の読者に分からないだろうかと、作者は途方もない考を出して、行きなり「走れメロス逃走図」を以てこの本の表紙開きに挟み込んでいる。結果、とてもオモチロイものになった。 さて、非常に分かりにくいと思うが、順番に「山月記(中島敦)」「藪の中(芥川龍之介)」「走れメロス(太宰治)」「桜の森の満開の下(坂口安吾)」「百物語(森鴎外)」の冒頭部を改変して、本書の紹介に代えてみた。 やって見てわかったが、そういう安易な方法だと、つまらないモノしか書けない。森見登美彦は、文体は全体的に真似てはいるが、有名文章を無理矢理挿入したりはしない。でも構造は紛うこと無きかの名作なのである。でも紛う事無き内容は森見登美彦なのである。しかもラストの「百物語」で、主要登場人物総出という力技もやってのけ、他作品にも出演している詭弁論部や韋駄天コタツや図書館警察長官まで出てくるのである。正に唯一無二の作家と言えよう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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「走れメロス」については、確か、「メロスは本当に
走っているのか」という考察もあったように思います。 ただ、興味があるのは「山月記」です。高校一年の時の模試(旺文社)に出題され、放課後に本屋に直行して買った記憶があります。ただ、その時は、「弟子」の方に惹かれ、大学に入って後に生涯の師に巡り合い、ますます「弟子」に惹かれています。ただ、『山月記』、もちろんただならぬ名作であると思いますが、森さんがどう料理されるか・・。図書館で予約したら、トップに来ました。すぐに読めそうです。 (2021年05月15日 22時31分59秒)
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