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2021年09月06日
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「春秋の檻 獄医立花登手控え」藤沢周平 講談社文庫

雨が上がったあとの濡れた道を、若い男が歩いていた。
ひと夜降りつづいた雨は、明け方にやんで、道のところどころに水たまりを残すばかりだった。東の空に、雨を降らせた雲が、まだ青黒く残っている。雲にさえぎられて、日の光はまだ地上にとどいていなかったが、日がのぼった証拠に、雲のへりが金色に輝いていた。空気が澄みきって、三月の半ばとも思えないほど、肌寒い朝だった。‥‥(6p)

冒頭である。あゝ藤沢周平の世界だと思う。なんのことはない描写ではあるが、この「若い男」が幸薄い世界を歩いていることだけは、なんとなくわかる。しかし、それは真っ暗闇の絶望的な世界なのではない。

「若い男」は女に会いに来たのであるが、木戸から出てきたのは待ち伏せをしていた岡っ引きだった。お縄になり、牢屋に入れられる。若い獄医の立花登は、診察時に「若い男」勝蔵の頼み事につい耳を傾けてしまう。「ある長屋を訪ねて10両を受け取って、おみつという女のもとに届けて欲しい」。しかし、10両という大金、相手が簡単に渡すはずもなく、登は襲われてしまうのだが‥‥。

藤沢周平の再読である。
でも、私には自信があった。
・ほとんどが20-40年前の読了なのですじは一切覚えていない。
・目を瞑って、どの藤沢本を選んでもハズレはない。
‥‥その通りだった。新鮮に読めた。
わたしは約95%ほどは藤沢作品を読了しているけど、本書は約35年ぶり。発見の多い読書となった。

立花登シリーズは藤沢周平の代表作というわけでもない。最近NHKが溝端淳平主演でドラマ化した、というわけからでもなく、電子書籍で少し安く買えたので暇つぶし用に用意したのだが、表紙をスクロールしたが最後、止めること能わなかった。

著者の狙いは明らかだ。
主人公を短編にちょうどいい設定に作っている。
立花登は地方出身の医者見習いの若者。しかし必要な医術は一応できるから、藪医者の叔父貴の家に寄宿しながら獄医の代診も引き受けている。若いから理想家肌、純粋ではあるが、美人には弱い、また情に流されやすい。その一方で柔術の免許皆伝、達人という腕前だ。獄医者をしているので、犯罪と接点を持つ。武士としての責任はないが、岡っ引きや同心から情報を引き出すこともできる。若いので、無鉄砲に首を突っ込み、早急に解決に導く。

35年前にはわからなかった、立花登の女の色気に敏感な部分や従姉妹のおちえの不良に辟易しながらも時々ドキッとしている部分もわかるようになった。頭は良いし、腕も立つのでなんとか切り抜けるのではあるが、今読むと危なかしくてたまらない。藤沢周平は、そんな彼を息子を見守るように描いていたのではないか。

性悪女を信じて島流しにまでなるのに女に金を渡そうとするいじらしい勝蔵という男や、様々な哀しい男女を描きながら、立花登が若くてのほほんとしていて、それでいて強いので、作品に藤沢初期のような暗さはない。むしろ明るい。

さて、次は藤沢周平の何を読もうか?





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最終更新日  2021年09月06日 11時27分33秒
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