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カテゴリ:読書(ノンフィクション12~)
「イーハートーブ乱入記 僕の宮沢賢治体験」ますむらひろし ちくま新書 ますむらひろしの宮沢賢治論ならば面白い。 ますむら・ひろし。1952年山形県米沢市生まれ。20歳の時に宮沢賢治を読み感激し、水俣問題に怒り、描き出したマンガ処女作が『霧にむせぶ夜』だった。「日本中の猫の代表たちの会議が、ますむらの田舎の米沢の河原で開かれ、人間たちを絶滅させる相談をする」というものだった。それ以降、ますむらさんは「常に猫を主人公」に、イーハトーブならぬ「米沢市」をもじって「ヨネザアド」という国の、東京の住処である愛宕駅をもじって「アタゴオル」という地域を舞台に精力的に漫画を描き始めます。‥‥あの命名が、そんなにも単純で、しかも宮沢賢治経由だとは知りませんでした! ますむらひろしさんの賢治読みは、研究者レベルです。一時期研究者の間で定説になっていた「賢治は猫嫌いである」に対して、説得力ある反論を試みています。これを読んで未だ「賢治猫嫌い説」を説く研究者が居たら、むしろその人の論文を読んでみたい気がする。 本書には無数の賢治作品からの引用が入っていますが、どの作品からとか、どのページからとか殆ど書いていません。うっかりすると、まるで賢治が何処かで書いているかのような「引用」が書かれていますが、それがますむらひろしさんの「想像」だったりしてもいます。ここまで賢治を血肉にしている人を初めて見ました。 本書の2/3は「銀河鉄道の夜」論です。何しろますむらひろしさんは、83年と85年に、本書執筆時点で2回猫版「銀河鉄道の夜」を描いています。現在では定説になっている「三角標は星々である」ということを「独力で」発見していて、その経緯を書いています。「銀河鉄道ー」は、ざまざまな謎がありますが、漫画にする以上は一定のイメージを持たなくてはなりません。この漫画自体が、優れた研究書なのだということが、よく分かりました。銀河鉄道世界の空には星はなくて、桔梗色の空が広がっています。それはどんな色なのか、色に敏感な賢治には当然イメージはあったでしょう。でも、漫画版は単色で描かざるをえませんでした。あれから25年、ますむらひろしさんは、現在満を持してカラー豪華版全4巻の「銀河鉄道の夜」を描いています。完成すれば600ページ、今までの約3倍の量です。 それに取り組む前に、私は83年85年版を手に入れないといけないなあと思うようになりました。今年9月は賢治88回忌です。澄み切った夜空を眺めがら賢治に想いを馳せてみるのもいいかもしれない。 2021年9月20日賢治忌前日に記入 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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