|
テーマ:本日の1冊(3685)
カテゴリ:読書フィクション(12~)
「夜のピクニック」恩田睦 新潮文庫 「本屋大賞受賞作は全て読むことにしている。受賞作を私は流行小説の窓としている」(「かがみの孤城」)などと宣言したものだから、ちょっと急いで過去の未読作品を読むことを、来年「流浪の月」文庫化までの課題としたいと思う。殆ど映画化されているので読んだ気になっていたんだよね。今のところ読む気のない一作(※)を除いては、あと5作残っている。 ※誰とは言わないけど、一人だけ受賞者の中に嫌いな作家がいるだけの話。映画は公開時に観ている。 「夜のピクニック」は2005年、第二回本屋大賞受賞作にして恩田睦受賞一作目。06年に映画化されて、当時高校生の多部未華子が主演した。終始怒った顔をしながら、ラスト場面でとても可愛い笑顔で締めたのが印象的だった(印象的な台詞を吐いた戸田忍役の郭智博くんは今どうしているのだろう)。 進学校の北高は、毎年全生徒一昼夜を歩く80キロの鍛錬歩行祭をする。三年生最後の歩行祭の数人の男女の一部始終を描いた小説である。映画は残念なものに終わったが、小説は傑作だったと思う。やはり読んでみなければわからない。 暫く読んで「恩田睦さん、絶対何処かで一昼夜歩いてみてるな」と思った。関係者の取材だけではわからない、歩いてみた者しかわからない「実感」に満ちていたからである。ところが調べると、彼女の母校の年中行事だったらしい。実際は70キロと少し短いけど、恩田睦は3回も実体験している。 私もある年中行事で、約30数年間、一日で20-30キロ歩く体験(最高は40キロ)を続けてきた。少し彼女たちの気持ちもわかる。準備のための煩わしさや実行委員たちは彼女たちの倍の運動量が要ることも理解している。だからこそ、それに乗っかってただ歩くことが、どんなに貴重な経験なのかも少しだけ知っている。 みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。 あとで振り返ると、一瞬なのに、その時はこんなにも長い。1メートル歩くだけでも泣きたくなるのに、あんなに長い距離の移動が全部繋がっていて、同じ一分一秒の連続だったということが信じられない。 それはひょっとするとこの1日だけではないのかもしれない。 濃密であっという間だったこの一年や、ついこのあいだ入ったばかりのような気がする高校生活や、もしかして、この先の一生だって、そんなそんな「信じられない」ことの繰り返しなのかもしれない。 「つまんねえ風景だな」 融は、そう呟いた。 「だな」 忍も同意する。 何もない田んぼに、屋敷林に囲まれた住宅が点在するだけ。田んぼの中を横断するように、送電線の鉄塔が点々と連なっている。確かに風光明媚とは言いがたい。 「でもさ、もう一生のうちで、二度とこの場所に座って、このアングルからこの景色を眺めることなんてないんだぜ」 忍は例によって淡々と言った。 「んだな。足挫いてここに座ってることもないだろうし」 不良生徒がたむろする怒涛の高校生活を描いた小説よりも、進学校の生徒の青春を描いたこの小説が、先ずは本屋大賞に選ばれたことを私は喜ぶ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書フィクション(12~)] カテゴリの最新記事
この映画は見たことがありませんが、本は読んだことがあり、とても感動したことを覚えています。
私の母校も地元(田舎です)の文武両道の高校でした。 田舎ですから主な進学先は東京の一流大学ではなく地元の国立大学でしたが。 私の母校には、ボート大会があって、毎年猛練習して大会に挑んでました。 いい思い出です。 (2021年10月16日 09時22分13秒)
はんらさんへ
レビュー欄には「高校生はこんなにもしっかり考えているものだろうか」という意見が散見しますけど、中学生を描いた「ソロモンの偽証」でも思いましたが、それは子供を見損なっていると思います。言葉にする時、少しはつっかえたり、「あの時言おうと思っていたのは、こういうことだったんだけど‥‥」とかはあるかもしれませんが、わりと子供はいろいろ考えているものです。中学生から高校生にかけて日記が残っているのですが、見るのも嫌なくらいびっしり書いていて、びっくりします。 (2021年10月16日 18時50分54秒) |
|