「首折り男のための協奏曲」伊坂のスタンス
「首折り男のための協奏曲」伊坂幸太郎 新潮文庫 「そうですね」と佐藤亘が口を開く。「戦争や事件や事故や病気は絶えずどこかにあって、泣いている親たち、悲しんでいる子どもたち、こういった人でたぶん世の中は溢れているんですけど、僕たちは自分の時間を、自分の人生を、自分の仕事をちゃんとやることしかできないような気がします。もちろん、自分のことだけでいい、とか、よそのことなんて知らない、と開き直ってしまうのは違うと思うんですけど」「ねえ、不細工、じゃあどうすればいいのよ」と木嶋法子は相手を尊重するのか侮辱するのかわからない態度で訊ねたが、すると佐藤亘は嫌な顔一つせずに、「どうすればいいのかはわからないので、いろんなことにくよくよしていくしかないです」(418p) この少しづつ繋がっていて、離れている「伊坂節」短編集の構造に、読者の感想の多くは集中するだろうけど、文庫解説において、わりともれなくそれは「解説」されているので、私はそのことに言及しない。 その代わり、伊坂幸太郎の最初期から最近まで一つも変わらずある、はにかむような佐藤亘さんの呟きに代表されるような、伊坂幸太郎のスタンスだけは、またもや確認できた。 結局、彼の作品は、文庫本になったのは約9割は読んでいる。おそらく、このまま推移してゆくと思う。これほどの付き合いになるとは、10数年前の出会いの時には、思いもしなかった。 2017年1月読了