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   Time can't wait ♪ sorachi

Time can't wait ♪ sorachi

「小田和正さんからあなたへ」記事

 
 同級生諸君へ             「朝日新聞記事より」
 
ボクは建築学科を卒業したけれどずっと歌をうたってきた。ま、よくある話だ。

今ツアーの真っ最中、

ステージ上「これからはどれだけ思い出を残してきたか、どれだけ友だちがい

るか、それが勝負」と言った。思い返せば、建築業界絶頂のころの同窓会はま

るで会場が建築現場みたいだった。みんなほとんど怒鳴っている。現場をひと

つも抱えていないボクは飛び交う声を遠く聞いていた。

「スゲェなあ、みんなほんとうに建築やってんだ」

バブルが崩壊しても同窓会は続く。減っていく現場。声はずいぶん小さくなった。

他の同級生を「アイツンとこはホントたいへんだよ」と思いやれる気持ちが救いだった。

根拠もなく「大丈夫だよ、頑張れよ」と言うと「こうなったら、カズマサはいいよな

(小田が二人いるのでそう呼ばれる)」と言い返されて黙ってしまった。

めげずに、同窓会は続く。誰もがひそひそ喋るようになった。

もうあっちの方にいるヤツに遠く話しかけたりはしない。酒量もだいぶん落ちた。

崩壊は回復のきざしを見せるかわりに、定年という信じがたい時をそこまで連れてきた。

「カズマサが頑張っていることがオレたちの励みなんだよ」と言われて小さくうなずいた。

でも誰もボクのCDを持っていたり、曲を知っていたりはしない。

東大の教授になったいちばん元気な藤森照信がとなりにきて

「カズマサ、家なんてけっこう誰でも簡単にできちまうもんだぞ」

と講釈を始めた。

いい話を聞いたと思ったボクは近況報告の時、キラキラした顔で

「さっき藤森から聞いたんだけど家なんてみんなでワイワイやってりゃ出来ちゃうらしい

(全員が1級建築士だからそんなことは百も承知)。」

で、思ったんだけど仙台のやつ(東北大出身だから)が土地探して、毎週末みんなで通って、

年とったら集まれるような別荘みたいの作らないか」とやったら、みんな黙ってしまった。

帰り道、考えた。毎週通って大工じゃ確かにたいへんか、夢みたいなこといっちゃったかな。

でも「これからは思い出と友だちが勝負」なんだと一晩で思い直したボクは、次の日早速スタッフに告げた。

「オレ、そのうち毎週仙台へ通うかもだぜ」


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