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ベトナム見聞録

ベトナム見聞録

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2005年05月15日
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カテゴリ:ベトナム旅雑記
 一泊二日のトレッキング・ツアーに申し込む。値段は15ドルとちょっと高い。外国人しか参加しないのも当然か。同行者はハノイから道連れの日本人二人、そしてサパ在住ガイドのクイ君。クイは二十歳のキン族で、日本人二人は元同級生Aと会社からハノイに派遣された語学研修生Kさん。

 町を出て、沢沿いに下る。沢を挟む丘陵の斜面には、棚田が重なりトウモロコシの焼畑がひろがる。小学校に寄ったり、フモン族の家でお茶によばれたりしたあと、川原で昼食をとる。フモン族の男の子二人が渓流を石で堰きとめて遊んでいる。二人とも小学校低学年ぐらいのとしごろか。ぼくらはそれを眺めながら、なんにせよ子どもが遊んでいられるってのはいいね、などとのんきな会話を交わしていた。しかし彼らはただ遊んでいるわけではないことがじきに判明する。

 川を堰きとめ、本流のわきに細い支流をこさえ、しばらく水が流れるままにしておいてから、支流を塞ぎ、上流と下流二手に分かれて支流に迷いこんだ小さな魚やオタマジャクシやヤゴなどを追いつめて手づかみでビニール袋に入れていく。晩飯のおかずをとっていたのだ。上流の男の子が岩の下に手を入れたかと思うと、すばやく手を抜いた。そして河原に落ちていた棒切れをつかみ、岩の下から気味の悪いぶよぶよしたかたまりをかき出し、棒に絡めて水から引き上げ、岩に叩きつけた。そして何度も何度も棒切れで叩く。近寄って見てみると、それは蛭だった。すでに打ちのめされて赤い血を垂れ流している。「血を吸われたのか」とぼくが訊くが、男の子は首を振り、「水牛の血」、とそっけなくベトナム語で言った。

 ガイドのクイが棒切れで蛭を突ついて遊んでいる。そしてぼくのほうを向き、「きょうの晩飯のおかずは蛭だよ、イワーイ」、うれしそうに言う。「てめえが食え」という言葉を飲みこんで、ぼくがやりかえす。「忘れずにもっていけよ、クイ。米焼酎に浸けるんだ。蛭酒だよ。きっとキクぜ」。ベトナム人はなんでも酒に浸ける。熊を丸ごと一頭酒を満たした水槽にぶち込んだり、そしてカラスやトカゲやうす気味悪い虫なんかを手当たりしだいなんでもぶち込んで、そしてどの酒も決まって「キクぜ」で形容されてしまうのだ。ひょっとして蛭酒なんてすでに定番になっているのかもしれない、そう思い至り、自分で言ってゾッとする。不安気にクイの顔色をうかがうと、クイは名案といった感じに肯き、「そりゃキクだろうな、血もあるし」、そう言って笑った。冗談でよかった、ぼくは胸をなでおろす。

 夕方には今夜泊めてもらう家に着いた。ザイ(Giay)族の家だ。高床ではなく平土間のつくりだった。タイー(Tay)・ターイ(Thai)系の彼らは高床の家に住むことが多いのだが、地域によっては平土間の場合もあるらしい(1)。ザイ族の家族とはほとんど話す機会がなかった。遠慮してかぼくらとは別の間にいつもいるし、ぼくらも無理に近づこうとはしなかった。食事はまったくそのままキン族風。キン族がオーガナイズしているツアーだ、きっと少数民族の食事なんか外国人の口に合うはずもないと決めつけているんだろう。ぼくらはがっかりしながら、ハノイで食べ飽きている春巻をつつき、持参のフモン族特製のリンゴ酒をあおる。すこし甘すぎるが、まあいける。ぼくらは酔いつつも、けっこう真剣な会話を交わした。少数民族が多数を占める「僻地」の観光地化について、観光客であるぼくらのあるべき姿勢について。

 少数民族が自身や自身の生活を観光名物化することによって、現金収入を増やし、そして豊かになるという。それは確かに一面真実だろう。けれどサパに限っては、その現金収入は微々たるもんだ。例えばぼくらはこの一泊二日のトレッキング・ツアーに一人15ドル払った。三人で45ドルだ。そのうち少数民族に流れる金額はいくらもない。ツアー会社から支払われるだろう一泊の宿泊代金だけだ。多く見積もったとして一人1ドルで3ドル。それだけだ。3ドルだって彼らにとっては決して小銭ではないが、あまりに取り分が少ない。残りはすべてキン族の懐に収まるようになっている。サパ近辺の少数民族は、彼らで話し合い、現金収入の途として観光化を自ら決断したわけではなく、外国人とキン族によって観光化されたのだ。そして金になるおいしいところを独占されたまま、細々と土産物などを売り歩いている。堂々とサパの町中で土産物店を開いているのはすべてキン族だ。観光化して現金収入をふやすにしろ、しないにしろ、それは当事者であるそれぞれの地域の少数民族の意見がもっと反映され、そして観光化を具体化するときに彼らがもっと主導的になるべきなのではないか。

 ぼくらはそんな話をする。そして話しつづける。キン族をワルモノに仕立ててそれで終わる話なのだろうか。ぼくらはいったい何様なんだ。観光化による恩恵のおこぼれすらあずかっていない多数の村人たちの眼に、ぼくらのような闖入客はどのように映っているのだろうか。ぼくらは、「何しにきた、さっさと出て行け」とつっけんどんにあしらわれても、返す言葉なんて何もないんじゃないのか。でも道すがらに出会った人々は、なぜ大人も子どもも、土産物を売りつけるわけでもないのに、こんなにもにこやかにやさしく迎えてくれるのか。ぼくたちは彼らの心の寛(ひろ)さに感謝するだけでいいのか・・・。

 翌日は別の道を通って、サパへと帰る。Aは川の飛び石をつたうときに足を滑らせ半身ずぶぬれになる。Kさんとクイは田んぼにはまり泥だらけに。運動神経が抜群で、長野の山小屋で二年働き山道に慣れているぼくは、他人の不幸を尻目に軽口をたたきながら、軽快に歩を進める。そして、みじめな連中のウラミをすこし買う。

 サパに着いたときはさすがの健脚のぼくも疲れた。AやKさんは膝がわらっている。冷えたビールがうまい。鹿鍋も猪のステーキもうまい。誰だ、サパにうまいものなんてないと言ったやつは。宿に戻り、ベッドのジャンケンをする。三人いても、ベッドは二つしかないのだ。サパの初夜ではぼくが勝ち、AとKさんがベッドを共有したので、今回ぼくはジャンケン辞退を謙虚に申し出る。二人はビールが入って気が大きくなっているのか、辞退する必要はないと言う。お言葉に甘えてジャンケンすると、またぼくが勝った。「ヨッシャ!」、小さくガッツポーズを決めると、「ヨッシャじゃねえ!!」、二人が怒りをあらわに。だからぼくは最初に辞退したじゃないか。二人はぼくのまっとうな抗弁を無視して、勝者を罵る。ぼくはまた、みじめな連中のウラミをすこし買う。(終わり)





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最終更新日  2005年05月16日 22時25分19秒
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