放課後 ~その後
次の日。待ち合わせ時間は10時。来てくれるかは分からなかったけど来てくれるだろうと言う自信はありました。ちょっと早めに家を出たんで9時30分には学校に着きました。ちょっと早かったかな…と思って図工室に行くともう外に1足靴が置いてあって中に入ると重光くんがすでにいて窓際に立って外を眺めていました。「おはよー…。」わたしが声をかけるとちょっと驚いたような顔をして「お、おはよう。」と返事をくれました。「早いじゃんか、まだ30分前だぞ。」「重光くんだって… わたしより早く来てるとは思わなかった。」「いや…その…な。 なんかは早くに目が覚めちまって。 ちょっと早めに来てただけだ。」「そ、そっか。」「………… にしても春休みだってのに ここは鍵もかけてないんだな。 無用心にもほどがある。」「確かにねー。 でもまぁ盗むものなんてないでしょ、ここ。」「まぁそれもそうか。」フフッと2人して笑い図工室の端っこの机に隣通しで腰をかけました。「…えっと、それで今日は…」ちょっと沈黙があってから重光くんが口を開きました。「あ、そうそう、えっとね…。」本当は何を話すかなんて何も考えてきてませんでした。とりあえずお礼を言わなきゃって思ったけど一番に理由はただ2人で会いたかったってことでした。こんなこと言えるわけないけどね。「あの…昨日。 ありがとね…かばってくれて。 しかもあんな恥ずかしいことまでさせちゃって…。」「え…いやあれは、オレがじゃんけんに負けただけで。 長澤が謝ることじゃない…うん。」「でも、わざと負けてくれたでしょ? とりあえずお礼言わなきゃと思って… わざわざ呼び出したんだ。 …ホントにありがとね。」重光くんの顔を見ながらそう言うと一瞬目が合い重光くんはすぐ目をそらすと「お、おう。」と言って顔を赤くしてました。良く分からないけど嬉しそうでしたね。なんであそこまでしてくれたの…?その質問もしたかったけど恥ずかしくてできませんでした。10秒くらい沈黙があってどうしよう…と迷っていると「ブラ…」と重光くんが声を漏らしました。「え?」わたしが聞き返すと「その…ブ、ブラジャー… してなかったんだろ。」重光くんは顔を合わせようとはせず目の前を見つめながらそう言いました。予想外の発言と的中に頭は真っ白、顔はポッポと熱くなり。「な、なんで…知ってたの…!?」ビックリしてわたしが更に聞き返すと「し、知ってたわけじゃねぇよ! ただ長澤って…その…他の奴らと比べて… 胸がないと言うか…」重光くんはわたしの胸に視線を向けながら照れながらそう言い放ちました。頭に血が上る音が聞こえました。やっぱり男の子ってそういうとこ見てんだ…おっぱい小さい奴だと思われてたんだ…そう思うと顔から火が出そうになるくらい恥ずかしくなりました。自分だって…あんな小さいおちんちんのくせに!心の中で叫んでやりました。…実際言えるわけなんてない台詞だったけど。明らかに狼狽するわたしを見かねて重光くんは慌てて付け加えました。「い、いや…だからその…! 上着脱いだら大変なことになっちゃうなーって。 それに長澤の裸をあいつら2人に見られるのなんて 絶対嫌だったからな!」…え?その言葉に一瞬空気が止まりました。重光くんもわたしと同じこと考えてたんだ。他の2人に見られたくないって…。昨日の安藤くんの話が頭をよぎりました。もしかしたら本当に重光くんもわたしのことを想ってくれているのかもしれない…。とにかく会話を続けなきゃと思って「わ、わたしも! 重光くんの裸をさゆと由香子に見られるのは なんか凄くヤだった! だから…その…あんなことしちゃって… …ごめん。」昨日自分がした行動が甦ってまた恥ずかしくなちゃいました。「い、いやアレは… 流石にちょっとビビッタけど… 全然その、気にしてないから…。」重光くんも昨日のことを思い出してかまた顔を赤くして頭からは汗が垂れ始めていました。またちょっと沈黙があって重光くんがそれを破るようにまたまた信じられないようなことを言ってきました。「オ、オレ… 胸が小さい奴とか… 別に嫌いじゃないから…。」まぁ顔がカーーーッと熱くなって重光くんの顔を見るのも恥ずかしくなっちゃいました。今日何回「胸が小さい」って言われたんだろう…。そう言うと更に重光くんは続けて「長澤は嫌いか…?」「…え?」重光くんの質問の意味が良く分からなくてわたしが聞き返すと「いやだから…、小さい…男。」照れながら、でも本気で気になるような口調でそう聞いてきました。「…なに…が?」そんなの分かっていたけどちょっと意地悪が働いたのか更に聞きなおすと「いや…そのだから… ち、ちんこ…だよ。 み、見ただろ?…オレの。」やっぱり気にしてたんだ…。言っちゃ悪いけどやっぱりホントにちっちゃかったもんね。さゆと由香子も言ってたし…。恥ずかしながらにそう言う重光くんは今まで見たことないよう顔をしていてなんか可愛いなーって思っちゃいました。女の子の前でそんな卑猥な言葉を発する重光くんにもちょっとビックリしましたけどね。とりあえずちゃんと答えなきゃ…。そう思って「別に…わたしも小さいとかなんて 全然気にしないよ…! 大きさじゃないって言うか…その… そう!凄い可愛かったし!」もう何を言っているのやら…見た、小さかった、可愛かった。全てを肯定した言葉になっちゃいました。重光くんは恥ずかしそうに口をしょぼめやっぱり顔を赤らめちょっとショックを受けてるようでした。「いや…その… とにかく、ホントにありがと。」重光くんの顔は見ず机を見つめながらそう伝えました。「…嫌いになってないか?」「…え?」少し間が空きそう言うと「…オレのこと。嫌いになってないか?」そう加えました。重光くんも机をじっと見つめているようでした。わたしは重光くんのほうに向き直して「…嫌いになんてなるわけないよ! むしろ…」…ずっと好きだった。そう伝えられればどんなにいいだろうと思い続けた2年間。でも恥ずかしくてやっぱり声にならない。重光くんも真っ赤な顔をわたしに向けてわたしの言葉の続きを待っているようでした。…言おう。好きって。大好きって。そう決心が付いて深呼吸を1つして言葉を発しようとした瞬間。…キーンコーンカーンコーン…。あっけに取られるわたしと光重くん。チャイムが鳴り終わる10秒間くらいわたしたちはただ見つめ合っていました。永遠にすら感じた長い沈黙。このまま時が止まればいいのにと本気で願いました。チャイムが鳴り終わると空気を戻そうと重光くんが「や、休みでもチャイムって鳴るんだな。 はは…」そう言いながら立ち上がり窓際に移動し外を見つめていました。「そ、そうだねー…ちょっとビックリ…。」重光くんの後姿を眺めながらそうつぶやくわたし。すると重光くんは図工室にかかった時計を見て「あーそっか…。」とつぶやきました。時計は10時30分を指していました。「オレ、市民体育館で、バスケの練習試合なんだ。 準備とかあるし…そろそろ帰らなきゃ。」そう言って申し訳なさそうな顔をわたしに向けてきました。「そ、そうだったんだ。 ごめんね!そんな日に呼び出しちゃって…。」「いやそんな…オレもその…会いたかったし。」照れる重光くん。もうお互い、相手の気持ちには流石に気づいてるはずでした。「じゃあそろそろ…」「うん、今日はありがと。 …わたしも帰るかな。」そう言って2人して図工室を出ました。外に出て向き合うわたしと重光くん。言葉が見つからずにどうしようか迷っていると光重くんが右手を差し伸べてきました。「え?」っと思うと「…握手。」左手で鼻を掻きながら重光くんは顔を赤らめそう言いました。「う、うん…。」わたしも右手を差し出す。そう言えば重光くんの手初めて握ったな…。握手をしながらちょっと沈黙…。ドキドキしながら待っていると「…5年でも、一緒のクラスになれると良いな。」最後にそう言ってくれました。わたしも誰よりも望んでいた願い。重光くんもそう思ってくれていた…。「…うん!」満面の笑みで答えるわたし。重光くんも嬉しそうに笑い返してくれました。「じゃ!」そう言って手を離すと「また4月に。」と言って後ろを向き歩いていきました。「試合…頑張ってね!」そう叫ぶわたしの言葉に後ろ向きで右手を上げて答える重光くん。そんな彼の姿を小さくなるまでただただ見つめていました。大好きな人のおちんちんを目の前で見てしまった。ただそれだけでも凄いことなのに自分自身の手でそんな彼のパンツを脱がせてしまった。そして…触ってしまった。更にはそんな重光くんの気持ちを知ってしまった。きっとわたしのことを想ってくれている…。顔が火を噴くほど恥ずかしくてでも嬉しくて夢みたいで…昨日からの感情が一気にこみ上げてきました。結果的にめっちゃ舞い上がってましたけどね。あの放課後がなければこんな気持ちきっと味わうことは出来なかったんだろうな。小さくなる重光くんの姿を見ながら5年生になったら絶対この気持ちを言葉で伝えるんだ、と心に誓い重光くんと反対方向に歩き始めました。見上げると突き抜けるくらい青く晴れた空―――あ、今日から春休みだったんだ。- おしまい -