第三話「トンネルの中」ある日の深夜、若い女性が家への帰り道を急いでいた。 近道をするには“出る”と噂のトンネルを抜けなければならない。 彼女は、 今まで何度もそのトンネルを通っていたが変なモノを見たこともなかったし、 その日もトンネルを抜けるつもりでいた。 でも入り口の前につくと、今日にかぎってトンネル内の電灯がすべて消えている。 「停電なのかな。どうしよう……」 彼女が別の道を通ろうか迷っていると、ふいに後ろから 「どうしました?」と声が聞こえた。 振り返るとそこには若い警官が立っていた。 「よかった!」と彼女は警官に一緒にトンネルを通って欲しいとお願いした。 警官は親切に彼女の手を引き、 懐中電灯をつけてトンネルの中へと入っていった。 明かりがあるとはいえ薄暗いトンネルはやっぱり不気味。 彼女はぎゅっと目をつぶり、警官に手を引かれるまま暗闇の中を進んだ。 どのくらい時間がたったのだろう。 「つきましたよ」と警官の声がしたのでうっすら目をあけると、 少し先にはもうトンネルの出口が見える。 ホッとしてお礼を言おうとしたとき、 前を歩いているハズの警官の姿が見えないことに気付いた。 いつのまにか懐中電灯の明かりも消えている。 「じゃあ今、私の手をにぎってるのは……」 恐る恐る手元を見ると、 トンネルの壁一面からびっしりとはえた無数の手のうちの一本が、 彼女の手をにぎっていた。 ジャンル別一覧
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