CRIDE・SOUL

第五話

第五話「メシもゆっくり食えない」


     -機動六課 倉和の部屋-

 模擬戦が終了した後、倉和は戦闘データと共に部屋に戻っていた。洗面台に立ち、上着を脱い
で見えるは鋼のような肉体、そこに浮かぶのは多々見える斬撃傷と弾痕。腹を見ると、先ほど
スバルから受けた拳のアザが少し残っている
 倉和が右腕に違和感を感じた。上げてみると少し痙攣しているのが分かる、エリオとの一騎打ち
の際にストラーダの矛先の電気が倉和の右腕をかすめていたのだ。
 口元に笑みを浮かばせ、痙攣している右腕の拳をガッと握った

倉和「・・・コイツらは育て甲斐がありそうだ」

 シャツを着てデスクに向かうと、ゲル飯片手に二人の戦闘データに手をつけた


     -機動六課 食堂-

なのは「あれ、飯田さんは?」

 食事を摂ろうと食堂に訪れたなのはが、六課陣の固まっている場所に訪れたがそこに倉和の姿
が無かった。そこに居合わせたはやてに訪ねた

はやて「倉和訓練官ならお部屋におるで、模擬戦終わってから二人の過去の戦闘データ貸してく
    れって言われて渡したんやけど」

リイン「倉和さん、最近食堂にも顔出さないでゼリーでの食事ばっかです」

なのは「まぁ、あの人の精神力じゃそう倒れないから大丈夫だと思うけど」

はやて「スバルやエリオの訓練項目の設定とか、自分自身の鍛錬もあるから、当分ゆっくり食事
    摂る事はでけへん、だから大量に即席食を買い込んだんやろな」

 そんな話をしていて、ウェンディがふと窓の外を見ると階段を降りる男の姿が見えた。布の
被った板のようなものを常に持っている人は、隊でもただ一人である

ウェンディ「アレって、倉和さんじゃないッスか?」

 そういうとみんなが窓の外に注目する。隊舎の前に出た倉和は、黒い大きめのバイクに跨りエ
ンジンを噴かしながら布の被った剣を背中に掛けている、本人はいつも戦闘服で過ごしているが、
バイクに乗る時は、革製の黒いライダースジャケットを着込んでいてフルフェイスのヘルメット
をかぶり、威圧感さはなおも倍増されている
 倉和の元にヴァイスが駆け寄り、ポーチらしき物を投げ渡した。一準備済んだ倉和は4本のマ
フラーから轟音を鳴らして消えていった

ヴィータ「あの姿が様んなってるから余計に怖ェな・・・」

リイン「でもなんか新鮮です、いつも戦闘服姿ですからね」

ヴィータ「そもそもなんであいつは管理局の制服着てねぇんだ?」

なのは「私たちみたいにデバイスにバリアジャケットが入っているワケじゃないから、一々着替
    えるの面倒だし、制服そのものが性に合わないんだって」

はやて「まぁ、殆どが特権の塊みたいなモンやし、5年もそうしとるから慣れとるよみんな」


     -ミッドチルダ・管理局地上本部 宅配便保管所-

保管所員「では、荷物はこちらになります。カートをお使いになりますか?」

倉和「いや、いい。後々戻すのが面倒だから抱えていく」

 そう言うと倉和は伝票にサインをし、「新規」と書かれた荷台に乗っている金属製の長く大き
いケースを左手で取り、脇に抱えて保管所を出る
 廊下を歩いていると、前の曲がり角からナカジマ三佐が出てきた。倉和の持っている箱を見る
と、不思議そうに首を傾げた

ゲンヤ「なんだいそりゃ?随分重そうだな」

倉和「俺のいた世界から取り寄せた大型刃物専用研ぎ機ッスよ、前に使用してたのが交換時にな
   っちまったんでね。少し長持ちする90キロ型を回したんス」

ゲンヤ「ハハッ、バカ腕力は相変わらずか・・・俺なら腰が砕けちまうぜ」

倉和「デバイスみたいに小さくできねェし、検査も楽じゃない・・・丹念な手入れを要するモン
   ばっかだから、ゆっくりメシも食えやしねェ現状ッス」

ゲンヤ「まぁおめぇさんならそんくらいでヘバる事はねぇだろうよ、高町嬢ちゃんやハラオウン
    のお嬢達にヨロシク言っといてくれ」


     -夕刻 機動六課・医務室-

スバル「んっ・・・うぅん・・・」

 目を開けば視界には真っ白い天井が広がっていた、ここが医務室だって事は一発で確信できた、
左を見るとエリオがまだ寝息をたてていた。すると医務室のドアが開く

ノーヴェ「んお、お目覚めか、やっぱ体力あるなお前は」

スバル「一発でやられちゃったなぁ・・・あ、エリオは大丈夫なの?」

ノーヴェ「二人ともケガ自体は大した事じゃねぇから、あとは気分の問題だろ。なんせまぁ一瞬
     だってのにハデにやられちまったからなぁ」

スバル「未だにあの人が人間じゃないって思っちゃうよ・・・あたしが言うのも何だけど」

ノーヴェ「ティアナが今あの訓練官のもっと詳しい実態をシャリオに調べてもらってる、何かか
     んかは分かるとは思うけどな」

 スバルは自分の握った右拳を見てため息をついた、それもその筈。絶好の距離位置でノーガー
ドの土手っ腹に全開の拳を当てたハズがまさかの軽傷で、逆に一撃の拳で破れるとは、戦闘機人
であり六課のフロントアタッカーとしてのメンツが丸潰れである
 そして一瞬見えた倉和の目が、途轍もなく恐ろしかった事。『氷の鬼人』の目を見てしまえば
終わりなのだとスバルは思った

スバル「突破力と破壊力は自信あったのに・・・」

ノーヴェ「だぁーほぅ!相手がバケモンじゃ仕方ねぇっての!そのバケモンの教え受けれるんだ
     から隅から隅まで教えてもらって強くなってこい!」

スバル「ノーヴェ・・・・・・う、うん!」

 スバルは自分の拳をガッと握って、ノーヴェの拳とゴツンと合わせた


     -六課 ヘリコプター待機場所-

 なのはが廊下を歩いていると、鉄の摩擦とダイナモを噴かすような混じった音がヘリ待機場所
付近から聞こえてきた。なんだろうと顔を出すと、倉和が四角い箱のような装置の側に立ち、横
には剣が立てかけられてある
 横で眺めていたヴァイスが、なのはに気づいた

ヴァイス「なのはさん、どしたんスか?」

なのは「ちょっと聞き慣れない音が聞こえてきたから、なんだろと思って」

ヴァイス「倉和の奴が『剣研ぎたいから油とか貸してくれ』って言うモンでしてね」

なのは「そっか・・・私たちみたいにデバイスじゃないから、自分で管理しなきゃならないんだ
    よね。よりによって、あんなに大きな剣を何本も・・・」

ヴァイス「手伝おうと思ったんスけど、生憎そっちの世界の機器はサッパリでしてね」

なのは「にゃはは、ああなると流石に同じ世界の私たちも無理だよ」

 二人の会話をよそに、倉和は口にゲル飯をくわえながら黙々と剣を研いでいる。
 入念に油を注入し、慣れた手つきでコンマ数ミリの欠けも逃さない研ぎ方はまさに職人か匠の
技であろう。サングラスをかけているが、恐らく中の目は瞬き一つしていない程集中している
 倉和の背中を眺めていたなのはが、ポツリと呟く

なのは「私とかみたいな強引な人ほど、凡ミスで墜ちちゃうんだよね・・・」

ヴァイス「ん?何か言いました?」

なのは「え?うぅん、何でもない。じゃ私オフィス行くから」

 なのはを見送ったヴァイスが、再び倉和の方を見る

ヴァイス「・・・墜ち方が尋常じゃないでしょうに、お二人さんは」


                 END


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