(C)マロン千一夜ほらふき物語・7・(14)
=勲章と乞食=―――――――――――――――――――――――W弁護士はフランスびいきかなと思う。なぜかフランスのことを話しているW弁護士は嬉しそうな顔をする。「先生はフランスに行ったことがあるんですか?」「これまでに3回行きましたよ。まぁ、おもにパリが中心でしたが、リョンにも行ったし、ニ-スにも行きましたな。クリさんは行きました?」「まだ」「行った方がいいですね。特に画家だったら、まあ、漫画家だって勉強になりますよ」「そうですか」「クリさん、犬に噛み付かれた腕はいかがですか?」「手の腫れは引きましたが、手の痺れはあります」「そうですか」「警察病院の後、近くの外科に行っていましたから・・・」「告訴する場合、噛み付かれた時の治療証明書を必要になりますからお願いしますね」「警察病院、それとも外科医院の?」「それは、最初に診断した警察病院がいいですね」「はい、判りました」「ところで、xxxxさんが飼っていたアフガン犬ですが、犬の訓練所でしつけを徹底的に仕込まれたと言ってます。人に噛み付くような犬ではないと言っているんです。主人に忠実だそうです」「でも、やれ!!と命令すれば跳びつくでしょう」「まあ、それはあるでしょう」「あのフラ公は、そんな男です」「でも、XXXXさんがクリさんに敵意を見せたことは何か原因があるのでは・・・・・」僕には思い当たることはなかった。「アフガン犬に噛まれた時の服装は何でした?」「皮のジャバ―でした」「どんなジャンバ-ですか?」「毛の生えた物です」「狸か狐のジャンバ―ですか」「犬だと思います。いや、狼かも知れません」「狼!!」W弁護士は驚いた。「何処で手に入れたんです」「原宿でフランス骨董市で買ったんです」「そのジャンバ-ありますね」「あります。捨てようかと・・・」「それはやめて下さい。物的証拠品ですから・・」あのジャンバ-を見るだけで悲しくなっていたから。「もう1つ聞いていいですか?」「なんですか?」「犬に噛まれた時の髪の毛は、今の頭の髪の毛のように伸びきっていました?」僕は頭に手をやって、くしゃくしゃにかき回した。狼毛皮にくしゃくしゃ頭。これじゃ、まるで乞食ではないか。「浮浪者みたいだったんですね」「いや、乞食スタイルでした」と僕は,ハッキリ言った。「でも、XXXXさんとは、しょっちゅう路でお逢いしていたんでしょう?」「はい」「それが、突然、あんな行為に出るとは思わないんですが?」W弁護士は頭をひねった。「それとも何か」「何かがあると思うのですが、何か、心当たりはないですか?」「実は僕の家で犬を飼っているんです」「犬を?。どんな犬です?」「柴犬の混じった雑種の犬なんです」「買われたんですか?」「うちの娘が江戸川の河原の土手に捨ててあった目のあいてない犬を拾って来たんです」「犬の名前は?」「ハナと呼んでいますが、登録名は江戸川花太郎とつけました」W弁護士は,思わず、<ハハハハハハ>と笑ってしまった。「時々、ハナちゃんを連れて散歩に出ると、あのアフガン犬が鎖をはずしてハナに飛びかかって首に噛み付いたのです。僕は棒を持ってアフガン犬を叩きまくって、追っ払ったのです」僕の話を聞いたW弁護士は納得したようにうなずいていた。「今日きこれで結構です。これからは起訴の手続きをしますので今度、来た時には治療証明書を持って来て下さい」「大丈夫ですか」「危害を加えたのはXXXX人ですから」と言われて、なんとなく安心感でW法律事務所を出た。