父の思い出(まだ生きてるよ)
病院でおやつに出たゼリー、いらないからやるといわれて、渡されました。そのときふと昔のことを思い出しました。わたしが小学校の2年くらいのころ、このあたりには店がなく、何かを買おうと思うと、バスにのるか、ずっと遠くまで歩かなければいけませんでした。それは冬の日で、雪がふっていました。このあたりで当時雪がふるといえば、即、吹雪を意味しました。なんの酔狂か、そんな天候のなか、父とかりんとうを買いに出かけました。まあ、酔狂な親子なのです。父は健脚なひとですし、道東の出ですので、悪天候の悪路も平気で歩いてゆきますが、わたしにはとてもしんどい道でした。ずいぶんあるいてようやく一見のお店にたどりつきました。そこのお店にはかりんとうがなく、かわりに、小さな丸いかりんとうを丸く固めたような、「げんこつ」というおかしがありました。これでいいかということになり、帰路につきました。寒い上に、頑張って歩いていたので、おなかがすいていました。父は自分のオーバーのふかふかのポケットにわたしの手をいれ、じゃあこれ食べようかといって、袋をあけ、丸ごとでは大きいので、逆のポケットの中で小さくして、わたしにくれました。それはとてもおいしいお菓子でした。父とわたしはげんこつを食べながら、うちに帰りました。そのげんこつというお菓子のおいしさは、しばらく父との共通の喜びでありつづけました。…そんなたのしいこともあったね、お父さん。
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