ジュラシック・パーク3
「ジュラシック・パーク3」 Jurassic Park 3 2001年 アメリカ映画製作総指揮 スティーヴン・スピルバーグ監督 ジョー・ジョンストン主演 サム・ニール さて、「3」です。 スピルバーグ監督は、今回は製作総指揮という立場に退き、「ミクロ・キッズ」「ジュマンジ」の監督、ジョー・ジョンストンがメガホンを取っています。 そのためか、「ミクロ・キッズ」や「ジュマンジ」のように、次から次へと危機が訪れ、ハラハラドキドキしっぱなしの、なかなかのジェットコースタームービーに出来上がっています。 環境保護とか、動物愛護とか、「1」「2」で訴えられていたテーマは身を潜め、どちらかというとアクション映画のような印象が残ります。 上映時間が94分と短めなこともあり、一気に最後まで楽しめてしまいます。そういう意味では、いい映画ということになるのでしょうが、僕は、いろいろと気になったところがあるので、述べさせていただきます。 まずは、今回新登場して、存在感を発揮しているスピノサウルスとプテラノドンについてです。 スピノサウルスは、ティラノサウルスに匹敵する大きさの大型獣脚類ですが、そのワニに似た平たい頭部の形状から、魚食に特化した恐竜ではないかと言われている恐竜です。 ところが、その体長の割には華奢な体つきのスピノサウルスに、最強の肉食恐竜ティラノサウルスとのバトルをさせ、しかも勝たせてしまうという、少しでも恐竜について知っているものにとって、あまりにもリアリティのない場面を見せられてしまったのです。 おそらくは、ティラノサウルスは「1」「2」で散々見せているので、新しく工夫したところを見せなければならないということで、それに代わる新しいスター恐竜を探していたところ、スタッフの誰かが、図鑑で、体長14~17mという体長だけならティラノサウルスに負けていないスピノサウルスを見つけ、目を輝かせたのではないでしょうか。 安直です。あまりにも安直です。 しかも、その後で、水中から攻撃してくるスピノサウルスという、その生態を意識した場面を作っていることから、スピノサウルスの生態に関する定説を理解していないわけではないのです。 これは、恐竜に詳しい者からの突っ込みは覚悟の上で、一般の方々をだませればいいや、という確信犯ではないでしょうか。 プテラノドンは、恐竜時代の最も後期に現れた、空を飛ぶために最も適応し、世界中の人が真っ先に思い浮かべるほど有名な、もっとも代表格の翼竜です。 誤解のないように書いておきますが、空を飛ぶために、前足の指を長く伸ばし、その間に皮膚の幕を張った翼を進化させ、中生代の空を支配した爬虫類は、翼竜と呼ばれ、恐竜と最も近縁な種でありながら、恐竜とは一線を画している存在です。だから、もっともなことを書きながらも、プテラノドンやランフォリンクスなどの翼竜を“空飛ぶ恐竜”などと称している文章などは、信用しない方がいいですよ。 翼開長7~8m(今のところ翼竜類の中ではケツァルコアトルスに次いで2番目の大きさです。)、体の大きさはほぼ人間と同じくらいですが、空を飛ぶための徹底した軽量化により、その体重は15~20kgと推定されています。 はい、ここで察しのいい人は気が付きましたね。 そうです。彼らは人間のような大きな生物を後ろ脚でぶら下げたまま、空を飛ぶなどということができるわけがないのです。ましてや、人間を餌として捕まえ、崖の上の自らの巣へ運び、雛たちに与えるという芸当ができるはずがないのです。一説には、翼竜の翼では、はばたいて上昇することは不可能で、高いところから滑空するのが精いっぱいであったとする学者もいるほどで、自分の体重の倍以上ある生物を抱えて、重力に逆らって上昇するなどということはどう考えても不可能です。 定説では、プテラノドンは、海の魚を主食にしていたと言われています。多くの野生動物がそうであるように、自らと同じぐらいの大きさの生物を食料として捕まえようとするわけがありません。縄張りを荒らされたとか、危険を感じてとかの理由で攻撃してくることはあるかもしれませんが。 これについては、多くの方々が気がついているようで、おかしいと指摘している意見がNETの中に多く見られます。 また、「1」で、“ジュラシック・パーク”が崩壊して以来、その研究施設も閉鎖されたはずで、ましてや「2」で、新社長が会社の経営難から“ジュラシック・パーク”の再建を画策したが、あまりにもアホな計画なため、そのために雇った多くの人々の命を失わせる結果となり、劇中では描かれてはいませんが、遺族への賠償などで、インジェン社どころか、その母体であるハモンド財団まで崩壊しているはずで、「1」の時以来、新しい恐竜は作られてはいないはずです。 それなのに、「1」や「2」に出てこなかった新種の恐竜が出てくるということはどういうことでしょうか。 スピノサウルス、コリトサウルス、アンキロサウルス、ケラトサウルスが、「1」「2」では姿はおろか、話にも出てこないのに、今回姿を見せている恐竜です。「2」で、インジェン社のアホな新社長が自らの軍団を連れてきて、大騒ぎしているときには、ジャングルの奥深くでおとなしくしていたのでしょうか。 ところで、多くの方が、NET上の感想や批評で言及している、ヴェロキラプトルのコミュニケーション能力と、化石から共鳴孔の形態を立体コピー(しかし、なぜ貧乏研究者の助手にすぎない彼が、あんな最新鋭の機械を持っていたのかは謎ですが。)して作ったヴェロキラプトルの声を出せる笛、非常に科学的興味をそそる描写で、「なかなかやるなあ。」、と思ってしまいました。 実際にあの笛を吹くことにより、恐竜と同じような声を出せるかどうか、という点には甚だ疑問を感じつつも、ヴェロキラプトルなど小型獣脚類が、群れで獲物を狩っており、そのためには、何らかのコミュニケーション能力を持っていたであろうことは、十二分に有り得ることで、非常に科学的です。 実際に、群れで獲物を狩る現存の生物、ライオンやオオカミなどは、お互いに鳴き声などでコミュニケーションを取っています。それらと同程度か、それ以上の知能を持っていたであろう小型獣脚類に、同じようなコミュニケーション能力があったことは十二分に考えられることなのです。 だから、僕は、この点については突っ込みをいれません、というか、グラント博士の学説を全面的に支持します。 それから、同じくNET上で多くの方々が言及している、サイドBで遭難した子ども、推定中学生のエリックが、多くの恐竜が闊歩する島で、2ヵ月間も生き延びていたのは有り得ないという意見に、思い切り反対したいと思います。 彼は子どもだからこそ、生き残ることができたと、僕は思っています。 その理由として、まず、体が小さいということが第1に考えられます。 6,500万年前、謎の大量絶滅によって恐竜がいなくなった後の新生代は、今まで恐竜が占めていたあらゆる地位に哺乳類が進化していきます。しかし、哺乳類は実は、恐竜の時代の前の三畳紀に一時期地球上を支配していた哺乳類型爬虫類から進化してきたというのが今は定説になっています。つまり、三畳紀後半からジュラ紀・白亜紀と続く恐竜時代、哺乳類はすでに地球上に存在していたのです。恐竜が地球を支配していた2億年近くの間、ネズミのような姿でほとんど進化することなく、夜のジャングルの地面をこそこそと活動しながら、その生命を細々とつないでいたのです。 だから、多くの恐竜たちに比べ、体が小さいということは、生き残る可能性が高くなるための必要条件なのです。 また、子どもは大人のように世の常識にとらわれない柔軟な考え方ができるということ、そして、エリックはグラント博士を一目見て、その正体に気がついたように、恐竜が大好きで、博士の本などをよく読んでおり、恐竜の生態などに非常に詳しかったということが、彼が生き残っていたおおきな要因のひとつです。 エリックは、どのようにして手に入れたかは疑問ですが、ティラノサウルスのおしっこを持っていました。そのおしっこを体につけ、ティラノサウルスのにおいをぷんぷんさせながら、ジャングルの中で活動していたのでしょう。それだけで、植物食恐竜や、小型の獣脚類は、寄って来ることをためらったはずです。 こういう世の常識にとらわれた大人なら思わずためらってしまうような行動を取れるエリックが、2ヵ月間生き残ってこれたことは全く不思議ではありません。 もちろん、インジェン社が残して行った食料が大量にあったという幸運もあったのですが、以上の理由で、エリックが生き残っていたことは全く不思議ではないと思っています。 というか、むしろ、あの非常に身勝手な両親のもとに、あんなに賢く、柔軟な考えができる聡明な子どもが育ってきたことは不思議に思っていますけど。 ということで、いろいろと疑問を感じつつも、次々とたたみかける危機のため、非常にハラハラドキドキして楽しめる、上質の娯楽作品を、今回は紹介しました。 あっ、誤解のないように書いておきますが、僕はこのシリーズ、いろいろと突っ込みを入れていますが、大好きです。3本とも、もう何度も何度も観ています。