勝手に映画批評

2011/09/10(土)22:25

壁男

ファンタジー(31)

「壁男」 2007年 日本映画 原作 諸星大二郎  監督 早川渉 出演 堺雅人 小野真弓  諸星大二郎先生は、少年ジャンプの手塚賞受賞のデビュー作「生物都市」で、注目し、のちの連載「暗黒神話」とその続編「孔子暗黒伝」で完全にファンになった、僕の大好きな漫画家のひとりです。単行本は、ほぼ全部持っています。  個性的な絵で、着想の独創的なSFや、独特の世界観を持つ伝奇物、風刺、ブラックユーモア、不条理ギャグな作品を作り上げていく、一部の熱狂的ファンを持つ漫画家です。  「壁男」は、マガジンハウス社のマニア的読者向けマイナー雑誌「COMICアレ!」に1995年から1996年にかけて掲載された短編3部作で、マガジンハウス社の単行本「夢の木の下で」に収録されています。壁の中に生息しているらしい「壁男」なる存在をめぐる物語です。  1作目は、壁男の視線で描かれたもので、壁男の設定、能力などを紹介しています。2作目は、カップルが壁男のうわさを聞き、男の方が壁男に取りつかれていく作品です。3作目は、2作目のカップルの残された女らしき女が、壁女になり、元の友人とコミュニケーションをとる作品です。いずれも、20ページ前後の短編で、細かい設定などは省き、重要な部分だけをつなぎ合わせ、上手にまとめられた秀作です。登場人物の名前も、2作目のカップルの男仁科しか出てきません。  レンタルビデオ屋の、邦画ホラーのコーナーでこのDVDを見つけ、原作諸星大二郎とあり、原作通りならホラーではないはずなので、(以前に書きましたが、ホラーは苦手です。)どう仕上げてあるのか興味をひかれ、借りてみました。  映画は、漫画の2作目をベースに作られています。短編漫画を1本の映画にするために、不十分な設定をつけたし、話を膨らませ、1,3作目のエピソードも付けたして、仕上げられています。  TVの深夜番組でレポーターをしている響子(小野真弓)は、1枚の投書から、「壁男」なるものを番組でレポートし、ブームを巻き起こします。響子の彼氏でカメラマンの仁科(堺雅人)は、「壁男」に異常な興味を示し、だんだんとのめりこんでいきます。  2人の職業設定や周りの登場人物、TV番組など、前半の展開はほとんど、つけ足した部分です。そして、何回か出てくる壁男がアパートの部屋を次々と覗いて行くくだりは1作目から、最後の壁女が手だけ残していくくだりは3作目からの挿入です。  主人公をカメラマンに設定し、グラビア撮影の愛想良さと対比して、自分の作品に対峙するときの狂気と紙一重なこだわりを示す芸術家肌の男として描き出しているところはなかなかやるなあと思いました。それは、多くの作品で2面性のある男を演じて来た堺雅人の個性とマッチして、いい味を出しています。(僕はTVドラマ「ジョーカー」の彼が好きでした。「篤姫」の将軍家定もよかったけどね。)  しかし、たった20ページ足らずの短編漫画の映画化なので、かなりつけ足したとはいえ、どうしても間延び感のあるのは仕方ないでしょうか。TV番組でのインタビュー場面がたびたび挿入されるのはくどいですし、立てこもり犯の場面の意味も良く分からないし、意味深発言をする女の子の存在もよくわかりません。タクシー運転手の死の意味もわかりませんし、最後の壁女が手だけ残していくくだりが取ってつけたようで、完全に余分です。(本当に取ってつけたんですけど。)仁科の死で終わっておけばすっきりするのに。(でも、そうすると完全に時間が短いですが。)  とりわけ、ヒロインの響子がひどいですね。小野真弓さんは、笑顔がかわいらしく、性格もよさそうなお嬢さんで、TVのレポーター役にはぴったりですが、怖がったり、深刻そうな顔したりがいまいちだし、たびたびあるベッドシーンでおっぱいも出せないようなら、断ればいいのに、と思ってしまいました。特に、肉体関係ある彼氏なのに、終始「仁科さん」はないでしょう。  非常に面白い題材で、映像化したくなる気持ちはわかりますが、短編漫画を一生懸命引き延ばして、無理やり映画化する意味は何でしょうか。いっそ、3本とも映像化し、30分くらいの短編3本で1つの映画にするというのはどうでしょうか。それとも、映画でなく、2.30分の映像作品で、「世にも奇妙な物語」の1本ではいけなかったのでしょうか。(実際、諸星大二郎原作のものがいくつかあります。)  「デビルマン」の時にも書きましたが、自分の好きな漫画作品が、中途半端な映画になるのは、いやですね。もっと内容をしっかり吟味して、原作者ともとことん話し合って、映画化してほしいものです。

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