勝手に映画批評

2011/10/13(木)09:29

奇談

ファンタジー(31)

「奇談」 2005年 日本映画 原作 諸星大二郎  監督 小松隆志 主演 藤澤恵麻 阿部寛  以前にも書きましたが、諸星大二郎先生は、昔からの大ファンです。1974年に、「生物都市」での少年ジャンプ手塚賞受賞、その直後の初連載「妖怪ハンター」、1976年の初の長編連載「暗黒神話」と、リアルタイムで体験し、その独特の世界観、独創的なアイデアに魅せられて、一気にファンになりました。それから、ちょこちょこと不定期に出る作品集を買い続け、その変わらない作品レベルに驚きながら、今は「西遊妖猿伝」の新刊を心待ちにしています。  この映画の原作「生命の木」は、異端の考古学者稗田礼次郎を主人公とした妖怪ハンターシリーズの一篇で、連載ではなく、1976年の「暗黒神話」連載の後、単独で増刊号に発表された30ページほどの短編です。最初の妖怪ハンターシリーズとして、ジャンプ・スーパー・コミックスの「妖怪ハンター」に最初の連載のものとまとめて収録されています。  「妖怪ハンター」は、先生の最初の連載であると同時に、掲載誌を転々としながら、現在まで、30年以上続くシリーズで、長髪黒ずくめの異端の考古学者稗田礼次郎が、奇怪な事件に遭遇し、それを解明(決して解決ではない)していくお話です。対決する相手は、世間一般で言うところの妖怪という範疇に納まらず、何かしら得体のしれないものばかりで、「妖怪ハンター」という名前は、最初の連載の名前だからそう呼ばれているのだと思いますが、いまいち内容とあっていません。(最初の連載だから、読者受け至上主義の悪名高き少年ジャンプ編集部に決められてしまったのでしょう。あまりにも俗的で、僕は好きではありません。)  さて、映画の方ですが、なかなか健闘しているではないか、なんとか合格点といったところでしょうか。(なに、この上から目線?)  いつも、漫画の原作ものについては、評価が辛い僕ですが、この映画は、原作の雰囲気を何とか出そうとして、頑張っているのがよくわかり、好感が持てました。諸星作品は、都会が舞台のものでも、その描線からか、おどろおどろしいというか、泥臭いというか、独特の雰囲気があるのですが、この映画はその感じを出すことに、かなりの力が注がれているようで、とてもよい感じ(諸星作品として)の映像に出来上がっています。舞台が、東北の山の中の村というのも、よかったのですかね。  大学院で民俗学を専攻する佐伯里美(藤澤恵麻)は、かつて、7歳の頃に2ヵ月間だけ過ごした東北地方の隠れキリシタンの村へ、調査にやってきました。そこで、隠れキリシタンの調査をしている異端の考古学者稗田礼次郎(阿部寛)と出会います。  里美は、16年前、この村で同じく7歳の少年新吉とともに、神隠しにあい、かろうじてひとりだけ生還するという過去がありました。里美と稗田は、村の長老であり、やはり子どもの頃に7歳の兄とともに神隠しにあい生還した経験を持つ老婆に話を聞き、村の奥にある“はなれ”と言われる集落が怪しいと、目星をつけます。“はなれ”は、住人がすべて7歳程度の知能しかなく、明治になって、キリスト教信教が解禁になった時、多くの村人とは違い、カトリックへの帰依を拒み、隠れキリシタンの教義を守っている、閉鎖された集落でした。  調査を続けるうちに、里美と稗田は、村の神父とともに、村の聖地カルバリ山(骨山)で、キリストのように十字架に張り付けにされている、“はなれ”の住人善次の死体を発見してしまいます。  ここでは書くのは控えておきますが、この後、あっと驚く結末が待っています。この結末が、原作を知らない方には、あまりに唐突で難解に思え、受け入れられにくいようですが、原作通りの映像で、コアな諸星ファンの僕としては、よくやった、よくぞここまで映像化した、と涙チョチョ切れる思いでした。  しかし、神隠し関係の話が、取って付けたようで、いまひとつ話の本筋になじんでいません。それもそのはずで、神隠しは、原作には出てきません。どうやら、原作通りだと、どう考えても1本の映画の長さに作り上げることができないと判断した制作関係者(監督・脚本小林隆志なので、きっと彼でしょう。)が、諸星作品にふさわしい要素として、設定したものと思われます。その視点は、間違っていないと思いますが、少し吟味が足りなかったようです。  以前の、「壁男」の時も書きましたが、諸星作品の短編を、2時間程度の映画に仕上げるのは非常に難しいと思われます。着想が面白く、その切り口が独特であるが故に、感動し、映像化したい衝動に駆られる気持ちは分からないではありませんが、あまりに独創的であるがため、その話を引き伸ばしたり、改造したりすることは容易ではありません。この映画も、「壁男」も、一生懸命工夫して引き延ばして、90分前後の映画に仕上げていますが、どうしても違和感が残ってしまいました。  無理せず、「世にも奇妙な物語」で、2.30分の映像を作ることをお勧めします。どうしても映画を作りたいのなら、「暗黒神話」「孔子暗黒伝」「海神記」「マッドメンシリーズ」をお勧めします。長さ的にちょうどいいでしょう。個人的には、「栞と紙魚子シリーズ」のクトゥルーちゃん関係の話をつなげて作るのも面白いと思いますが。  しかし、稗田礼次郎役、他にいなかったのでしょうか、阿部寛さんは非常に上手で、いい感じで演じていましたが、どうしても「トリック」とかぶってしまいます。見た目的には、「ヒルコ」のように、沢田研二さんが最適ですが、(稗田礼次郎は、他の話の中で、ジュリーに似ていると言われています。)もっと、よく考えてほしかったです。  また、題名はどうして「奇談」なんでしょうか、これでは意味が広すぎて、諸星作品のすべてに当てはまってしまいます。原作通りの「生命の木」ではいけなかったのでしょうか。キリスト教関係から圧力でもかかったのでしょうか。

続きを読む

このブログでよく読まれている記事

もっと見る

総合記事ランキング

もっと見る