勝手に映画批評

2012/01/09(月)05:27

4ヶ月、3週と2日

ドラマ(76)

「4ヶ月、3週と2日」 4 luni, 3 saptam?ni si 2 zile、2007年 ルーマニア映画 監督 クリスティアン・ムンジウ 主演 アナマリア・マジンカ  カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したルーマニア映画です。妊娠したルームメイトの中絶を手伝う女子大生の長い1日を描いた作品です。  冒頭、1987年ルーマニア、と字幕が入ります。まず、この意味を理解していなければ、この物語の意味を本当に理解することは難しいでしょう。  1987年のルーマニアといえば、チャウシェスク独裁政権の末期です。(1989年に崩壊)1980年代、独裁政府は対外債務返済のため、国内の農産物や工業品を輸出に回し、国内では配給制にしました。いわゆる飢餓輸出といわれるものですが、そのため、国民は日々の食糧や極寒の冬の燃料も手に入らなくなり、困窮しました。  そんな中、60年代から続く、人口増加のための人工中絶と避妊の禁止が行われていたため、町にはストリートチルドレン(チュウシェスクの子どもたちと言われている。)があふれ、闇の中絶手術のため、命を落とす女性も多かったという話です。  言われてみれば、映画の画面が非常に暗く、街灯の明かりがほとんどなく、真っ暗の中移動する主人公の場面が多いことに気付きます。車もほとんど走っていません。いかに町が貧しいのかがわかります。  女子大生のオティリア(アナマリア・マジンカ)は、朝から忙しく動き回っていました。ルームメイトのガビツァの荷造りを手伝い、所持金を確認し、ホテルの予約を確認しに行ったら、ガビツァが電話で予約したはずが入ってなく、別のホテルを予約しに行き、自分の彼氏にお金を借りに行き、調子が良くないというガビツァの代わりにベベという男を迎えに行き、一緒にホテルへやってきました。  ベベという男は、ルーマニアでは違法である人工中絶をやってくれる男でした。ホテルではガビツァが待っていました。  オティリアとガビツァはベベと、中絶方法や、料金について相談します。そうすると、電話での依頼では2カ月と言っていた妊娠が4カ月を超えることがわかり、指定のホテルではないことも合わせ、ベベの機嫌が悪くなってきます。料金も、用意していたお金では不満のようで、結局、2人が体で払うことになってしまいます。  チャッチャと2人と性交を済ませた男は、手早く中絶できるように処置をし、ガビツァに絶対に動くなと言い残し帰って行きました。ショックでしばらく動けなかったオティリアでしたが、彼の母親の誕生会に行く約束をしていたため、ガビツァを残し出かけます。  オティリアの彼アディは、元気のない彼女を問いただします。オティリアはガビツァの中絶のために動いていたことを告白し、先日自分の危険日に平気でHしたことを攻めます。いまひとつ煮え切らない彼にイライラしながら、オティリアは彼の家を後にします。  ホテルに戻ると、ガビツァは寝ており、中絶した胎児がタオルにくるまれバスルームにほかってありました。オティリアはガビツァにたのまれ胎児を処分しに夜の街に出かけます。ベベは、胎児を「決して埋めるな。ごみ捨てに捨てろ。」という指示を残していました。土に埋めると町を多く徘徊している野犬が掘り返してしまうからです。  何とか処分したオティリアがホテルに戻ると、ガビツァはレストランで食事をしていました。少しイラつきながらもオティリアは、同じテーブルにつくのでした。  オティリアは、終始イライラしています。しっかり者のルームメイトに頼りっきりのガビツァに、態度の良くないホテルのフロントに、横柄な態度の闇医師ベベに、煮え切らない彼氏アディに。しかし、彼女が一番怒っているのは、こんな社会をつくっているルーマニア独裁政権にではないでしょうか。  ルーマニアの監督とスタッフが、かつての自国の独裁政治を糾弾する、この映画を作ったことに、絶賛の拍手を送りたいと思います。  ワンシーンワンカットの長回しで、固定されたカメラの中、丸で静止画のようなカットも多くみられる映画ですが、終始緊張感があり、まったく退屈することがない、秀作でした。  しかし、全く出てこない、ガビツァを妊娠させた彼氏は何をしているのでしょうか。煮え切らないオティリアの彼氏アディも含め、男たちの無責任さも気になりました。中絶が禁止されているのなら、彼女を決して妊娠させない配慮を、男がすべきでしょう。アディなんて、彼女の生理日を知っていながら、危険日と思われる日に平気でHしているんですよ。若いからといって、欲望だけに支配されてはいけませんよ。

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