勝手に映画批評

2015/07/07(火)00:44

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

ファンタジー(31)

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」Life of Pi 2012年 アメリカ映画 監督 アン・リー 主演 スラージ・シャルマ  DVDレンタルしてきました。  以前、「なぜ作品賞?」という評をこのブログで書かせていただいた「アルゴ」が作品賞を取った回で、実は最多受賞(監督賞など4部門)だったのは、この作品です。本命「レ・ミゼラブル」、対抗「リンカーン」そして穴「ライ・オブ・パイ」と言われていた回です。  しかしこの作品、監督こそ、かつて「グリーン・デスティニー」で外国語映画賞を、「ブロークバック・マウンテン」で監督賞を受賞している巨匠アン・リー(台湾出身)ですが、役者陣はすべて無名な方々で、ほとんどがアジア人、主役の少年に至っては、なんと演技経験全くゼロ、舞台もインドから太平洋の真っただ中、というアメリカ映画としては全くの異色作です。  ヒンズー教とキリスト教とイスラム教とを同時に信奉し、かつ円周率を延々と暗記するほど賢く、泳ぎや楽器も得意な少年パイ(スラージ・シャルマ)、インドで動物園を経営していたパイの一家は、新天地を求め、動物とともにカナダに移住を決断します。  しかし、乗船した日本の貨物船は、太平洋を北上中に海難事故に遭い、16歳の少年パイは人間では唯一の生存者となってしまいます。彼はライフボートでオランウータン、ハイエナ、シマウマ、ベンガルトラと過ごすことになってしまうのです。  足を骨折しているシマウマを襲うハイエナ、それに怒ってハイエナを襲うが逆に倒されるオランウータン、ハイエナはベンガルトラに倒され、結局、トラとパイ少年とで広大な海をさまようことになるのでした。  以前紹介した「127時間」や「キャスト・アウェイ」のようなサバイバル映画かと思っていたら、違いました。パイ少年がいかにしてトラと共存し、危機を乗り越え生還することができたのか、誰もが予想したであろう、そんなテーマの映画ではありませんでした。  冒頭、パイ少年が学校でいじめられていた様子や、いろいろな宗教を同時に信奉する様子など、幼少からの生い立ちを語る部分が結構あり、「いったいいつから漂流が始まるんだ?」と思ってしまいます。  その後、嵐に会って遭難する海洋スペクタクルを経て、パイとトラ、2人だけの漂流が始まると、トラとの対決、クジラやトビウオの群れとの遭遇、不思議な島(どんな島かは秘密にしておきましょう。)への漂着、そしてトラとの別れ、なんか奇跡的な状況の連続を、この世なものとは思えないような美しい映像とともに、描き出していきます。  そして、メキシコに漂着(彼が結局助かるであろうことは明らかなので、書いてしまいました。)後、彼が語った話、ここで初めて冒頭の彼の生い立ちが語られている意味や、漂流中の現実離れした映像の連続の意味が分かってきます。この作品は、サバイバル映画ではなく、宗教的な意味のある寓話なのではないでしょうか。  ということで、キャストや舞台だけでなくそのテーマや映像も異色な、どちらかといえばファンタジーな映画だったというお話でした。  ところで、主役パイ役のスラージ・シャルマくん、実にいいですね。なんと彼、全くの演技初体験のデビュー作です。しかし、彼の表情やリアクションが非常に豊かでリアルなんですよね。まあ、ある意味素人っぽいっていうことなんですけど。でも、トラの映像はほぼCGで、彼の前には実際には存在していないという話なので、そればっかりでもないのかなあ。まあ、今後に期待ですよね。

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