初恋
「初恋」 2006年 日本映画 監督 塙幸成 出演 宮﨑あおい 小出恵介 藤村俊二 宮﨑将 公開時の宣伝文句、「三億円事件の犯人は女子高生だった。」、そして、その昭和最大の未解決事件を描いているのに全く似つかわしくない「初恋」という題名、非常に気になっていた映画でした。 実母が家を出てゆき、親類の家に預けられて育った高校生のみすず(宮﨑あおい)は孤独な少女でした。男に襲われそうになり警察の聴取を受けても家への連絡を拒んでいましたが、ショックを受けて不安定になっていたみすずは、音信不通だった兄・リョウ(宮﨑将)から手渡されたマッチに書かれている店、新宿のジャズ喫茶Bへと立ち寄ります。 店内には兄を含め6人の若者がいました。立ちつくすみすずに、彼らは“面接”と称して素性を聞き出そうとします。子ども扱いされてカッときたみすずは言い放ちます。 「大人になんかなりたくない」。そのひと言で彼女は“合格”し、リョウとは兄妹であると明かさないまま、“B”に入り浸ることとなるのです。 リョウは多数の女性たちと関係を持ってはヒモとなり、ユカは劇団で女優として活躍していたが実家やリョウとの関係に悩んでいました。テツとヤスはチンピラを暴行して金を脅し取り、ドラッグに明け暮れていました。タケシは小説家を目指し、大学生の岸(小出恵介)は仲間内では冷めた態度から“つまらない男”だと扱われていました。 ある日、みすずは補導されそうになったところを岸に救われます。Bの仲間たちは新宿でのデモに巻き込まれ、警官たちに暴行を受け負傷します。権力に対する怒りを内に秘めていた岸は、みすずをバイク屋の柏田(藤村俊二)に紹介して運転を教え、温めていた計画を打ち明けます。みすずの力が必要だと言ってくれた岸のために、彼女はその計画を了承するのです。 そして、1968年12月10日、白バイの警官に扮したみすずはトラブルに遭いながらも三億円の強奪に成功します。 “三億円事件”は、1968年12月10日、東京都府中市内で東芝府中社員のボーナス、約3億円を乗せた現金輸送車が、白バイに乗ったニセ警官に奪われた事件です。3億円という当時しては膨大な被害額(現代の価値に換算すると10億円にもなるという。)、犯行に使ったバイク(後でわかったことですが偽白バイだったようです。)や現金が入っていたジェラルミンケースなどかなりの物証が残っていたにもかかわらず、結局時効を迎えて迷宮入りとなり、、非常に世間で話題になった事件です。 あのあまりにも有名な実行犯のモンタージュ写真が捏造だという話もあり、この映画のように、真犯人は女性であるということは十分にあり得ること(もちろん体格や声の問題はありますが。)ですし、劇中の主人公と同じ名前の原作者の著作がこれ一作のみであること、その経歴などが全く不詳であることなど、このお話が真実ではないかとうわさされているそうです。 しかし、このお話のテーマは三億円事件の真実を告白することではなく、それを巡る、みすずと岸の、若さゆえのもどかしすぎる恋愛であることは明白で、だからこそ題名が「初恋」なんだなと理解しました。 でもそうなると、彼らの犯したことが”三億円事件”である必然はないわけで、あえてこの日本で一番有名な未解決事件を非常にリアルに描いてみせているところに、何かしらの真実があるのではないだろうか、と思ってしまうのは勘繰りすぎでしょうか。 まあ、“三億円事件”の真実はともかく、この映画の公開の前年、「NANA」「パッチギ!」でそれぞれブレイクした主演の2人の演技力が光る、名作であることは揺らぎないところでしょう。 ちなみに、みすずの兄リョウ役の宮﨑将(まさる)は、宮﨑あおいの実の兄です。