ユナイテッド93
「ユナイテッド93」 United 93 2006年 アメリカ映画監督 ポール・グリーングラス あの911アメリカ同時多発テロで、ハイジャックされた4機のうち、唯一目標まで到達しなかったユナイテッド航空93便の離陸から墜落までを、管制センターや軍の対応も交えながら描いたノンフィクション映画です。 もちろん、実際93便に乗っていた人はすべて犠牲になっているので、当時の機内からの通話記録や、残された資料、関係者の証言などをもとに、実際の機内の様子など、可能な限り、事実に近いように再現した映画です。 ニューアーク国際空港で、サンフランシスコ行きユナイテッド93便に乗員・乗客が乗り込みました。朝の離陸ラッシュに巻き込まれ、30分遅れての離陸でしたが、天候も良く、最初は順調なフライトでした。 一方、ボストン管制センターでは、朝のラッシュ時の運行管理に大忙しでしたが、アメリカン航空11便の通信が途絶え、あやしい機内の声が聞こえたため、ハイジャックを疑い、追跡していたところ、レーダーから機影が突然消えてしまいます。 ちょうどその時、ニューアーク空港では、ニューヨーク・マンハッタンの国際貿易センタービルから煙が上がっていることを視認し報告します。 アメリカン11便が消息を絶ったのが、ちょうどマンハッタン付近であったことから、貿易センターに衝突したと推測した管制センターでは、他の便の無事を確認します。すると、通信が途絶えた便がいくつか出てきて、緊迫感が広がります。 そのころ、アメリカ空軍も、事態の重要性を認識しつつあり、対応を始めます。 ユナイテッド93便では、3か所に分かれて座っていた4人の犯人が、行動をためらって、そわそわしていました。そのうちひとりが、トイレで爆弾の準備を始めました。彼が爆弾を腰に真希、トイレから出て来たのを合図に、残りの3人も動き出し、乗客のひとりをナイフで刺し、2人はコクピットで、パイロット2人を殺害し操縦席に座り、残りの2人は爆弾とナイフをかざしながら、乗客を制御しました。 そのころ管制センターでは、数機の通信が途絶えた航空機に警戒していました。そのうちユナイテッド航空175便が、レーダーから消えます。モニターに大きく映し出していた貿易センターの映像には、もうひとつのビルに激突する航空機が映し出されました。 軍では、情報収集と、旅客機の護衛の戦闘機の手配に、混乱しています。 ユナイテッド93便機内では、乗客たちが、ハイジャック犯の目を盗んで、機内電話や携帯電話で、家族や警察などに連絡を取っていました。自分の状況を知らせるとともに、貿易センタービルの状況を知らされます。自分たちの機も同じだと思った乗客たちは、何とか犯人たちをやっつけられないか相談し始めます。 管制センターでは、ユナイテッド93便の連絡が取れないことに気付き、警戒し始めます。 とうとう意を決した数人の男性乗客が、行動を起こします。まず、客席にいる2人の犯人に襲いかかり、爆弾を奪いました。そして、コクピットのドアを破り、運転席の2人に襲いかかります。操縦かんを奪われそうになった犯人は、観念し神に祈りながら、機体を山に墜落させていきます。 この映画、有名なスターはひとりも出ていません。役者はすべて無名の人ばかりです。その上、管制官や軍関係者の役には、本人が多数出演しています。そのため、誰もクローズアップされることなく、誇張や演出もなく、非常にリアルな映像になっています。 事件からまだ数年しかたっていないため、人々の記憶が生々しく、事件をドラマチックに演出して描くことははばかられ、徹底したリアリズムが追及された結果です。何しろ、リアリズムを追求するため、乗客たちの服装まで、遺族に聞いたりして調べ、再現しているほどです。 そんな風に、誇張や余計な演出のないこの映画ですが、ものすごい緊迫感の連続で、2時間、まったく退屈することなく、一気に集中して観てしまいました。結局、どんなに凝ったお話を考えても、事実に勝るものはないということでしょうか。それだけ、たいへんな事件だったということでしょう。 大事件の記憶を風化させることがないように、後々の人々に語り継げるように、事実をしっかりと調べ、余計な感情を挟むことなく、しっかりとした映画を作ってくれた、グリーングラス監督はじめ、この映画にかかわった人々の努力をたたえます。 このテロ事件によって、亡くなった多くの人々の御冥福をお祈りいたします。