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名無し人の観察日記

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2008.08.19
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カテゴリ:カテゴリ未分類
 堤未果氏のルポルタージュ「貧困大国アメリカ」を読みました。きっかけはこちらの日記だったのですが……まぁ、こちらへのツッコミはまた後にして、まずは「貧困大国アメリカ」の感想から。
 結論から言うと、力作ではあります。アメリカの貧困層がどんな暮らしをしているのか、と言う事を知るには役に立ちます。
 ただし、それだけ。力作だから良作とは必ずしも限らないもので、この作品はかなりの欠点があります。まず
「新自由主義という邪悪な思想を奉ずる政府や大資本が、清く正しく生きている貧困層を食い物にしている」
 という結論が最初にあって、それ以外の発想を認めないというスタンスが強すぎ。最初に結論ありきなので、資料の読み方一つとっても首を傾げざるを得ないような記述が随所に見られます

 例えば第一章では「レーガン政権が導入した新自由主義政策が貧困層を増大させ、貧富の差を拡大させた」と言う主張がなされています。
 ところが、実際のレーガン政権は必ずしも貧困層を増やしてはいません。一期目の四年間では確かに増大傾向が見られますが、第二期では減少に転じ、最終的に就任前とほぼ同等の水準を保っています。

 
usa_hinkon.gif
 
(アメリカ商務省「1996年米国人口統計調査」を加工)

有色人種(黒人・ヒスパニック)の貧困層など、長期的に減少傾向にあり、堤氏がこの表のどこを見てレーガン政権が~と言う主張に至ったのか、さっぱりわかりません。
 
 それでもこの表はまだマシなほうで、全く資料の裏づけを出さない主張もあります。例えば、堤氏は日米共に「社会保障費がカットされている」と主張しています。
 
「だが、実は全てを変えたのはテロではなく、「テロとの戦い」と言うキーワードのもとに一気に推し進められた「新自由主義政策」の方だった。何故ならあの言葉がメディアに現れてから、瞬く間に国民の個人情報は政府に握られ、いのちや安全、国民の暮らしに関わる国の中枢機能は民営化され、競争に負け転がり落ちていった者たちを守るはずの社会保障費は削減されていったのだから」(P.203)

「日本もアメリカを追うようにしてさまざまなものが民営化され、社会保障費が削減され、ワーキング・プアと呼ばれる人々や、生活保護を受けられない者、医療保険を持たない者などが急増し始めた」(P.204)
 
 実際には社会保障費がカットされていると言う事実はありません……というと語弊があるかもしれませんが、大枠では間違っていないはず
 事実はないというと語弊があるかもしれないと思うのは、社会保障費の中で特定の分野はカットされている可能性があることですが、それでも全体の予算は年々拡大しており、ブッシュ政権時代に限っても、一年目の2001年に約1兆2000億ドルだった社会保障費は、2008年度には約1兆8000億ドルと、6000億ドルも増額。2010年ごろには2兆ドル突破が予測されています。日本も、新自由主義経済を導入した小泉政権時代から社会保障費は増額され続けています
 






予算/年度2001年度2002年度2003年度2004年度2005年度2006年度2007年度2008年度
日本17兆5552億円18兆2795億円18兆9907億円19兆7970億円20兆3808億円20兆5739億円21兆1409億円21兆7824億円
米国1兆1194億ドル1兆3176億ドル1兆4179億ドル1兆4858億ドル1兆5861億ドル1兆6720億ドル1兆7590億ドル1兆8316億ドル

(日米財務省HPより抜粋)

 堤氏の「社会保障費はカットされている」と言う主張がどこから来たのか、私にはわかりません。ただの思い込みじゃないだろうな……この時点で、既に中身に対する不安感と不信感がかなり大きくなっていますが、続けて見ていきましょう。

 他にも疑問点はあります。序章ではサブプライムローン問題で家を失った移民家族の話があるのですが、疑問に思ったのが「膨大な借金が残った」という一節。アメリカの不動産ローンは、利用者保護の観点から基本的に「ノンリコース制」と言う、債務が不動産価値を超過しない制度を採用しています。簡単に言うと、仮にローンが払えなくなって家が差し押さえにあっても、その時点で残る債務は免除されると言う事です。
 仮にこの家族が「膨大な借金」を持っているんだとしたら、それは住宅ローン以外で作った債務だと思われます。
 ついでに言うと、本書に限らずサブプライムローンを「悪徳金融業者が貧困層から搾取するために考え出したシステム」的な文脈で捉えて批判している意見が多いのですが、サブプライムローンは「貧困層向けのローン」ではなく、「クレジットヒストリーの信頼度が低い層向けのローン」と言うのが正しいです。
 アメリカは非常にカードを重視する社会で、クレジットカードが身分証明書並みの信用を持っています。長期滞在者や移民でも、まず何らかの形でカードを取得し、ローンを利用してヒストリー(使用履歴)を積み重ねて信頼度を上げて行く事が、社会的信用を得る方法となっています。
 このローンの支払を滞納したり、自己破産歴があったりして信頼度(プライム)が低い(サブ)層を「サブプライム」と言い、必ずしも低所得層を意味しません。サブプライムローンはこうした層を対象に、金利を高く設定してある、金融機関にとってはハイリスク・ハイリターンなローンです(破綻して回収できなくなるリスクが高いので、金利も高くなります)。
 金利が高い代わりに、審査が甘くすぐにローンが組めることから、2003~5年にかけてのアメリカ住宅市場のバブル時には、サブプライムローンを利用して不動産を購入し、すぐに転売して利益を稼ぐマネーゲームが流行し、こうした過剰投資がバブル崩壊の一因になったようです。
 バブル崩壊によってサブプライムローンのハイリスクな側面が一気に表れ、先日の日記でも触れたように、住宅金融の巨人・ファニーメイとフレディマックですら公的資金注入を求めざるを得なくなり、地銀の破綻も多数発生しています。もしサブプライムローンがやらずぶったくりのシステムであれば(そもそもそんなローンは成立し得ないと思いますが)、これらの金融機関はもっと儲けており、我が世の春を謳歌しているでしょう
「搾取するものすらない」貧困層から何かを搾取しようとするシステム、なんてものは最初から破綻確定の代物で、そんなものを大真面目に作るバカはいません。サブプライムローンは結果的に破綻したから問題になっただけで、はじめから搾取するための~、とか言うのはただの陰謀論に堕しています。まともに論ずるに値しません

 長くなったので、一回切ります。後半に続く





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Last updated  2008.08.20 00:47:51
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