Wordbook of Kurumimochi               くるみもちの単語帳

2008/10/31(金)06:54

第60回正倉院展

奈良観光案内(22)

 今朝、正倉院展に行ってきました。散歩がてらに家を出て、会場に着いたのは開館時間(9時)を5分くらい過ぎたころ。開館待ちの人が入った直後で、立ち止まることなくスンナリ入場できました。年々混雑がひどくなる正倉院展ですが、平日の朝一番なのでまだましだったようです。陳列ケースの前は一重かせいぜい二重の人垣で少し待てば前列で観ることができました。音声ガイドで説明を聞きながらゆっくり回って2時間位かかりました。目録などを買って、休憩して出てきたら、もう新館の軒下は三折れに巡行していてさらに建物に沿って50メートルくらい並んでいました。ひどい時は春日大社の参道まで延々と伸びるので、これでもまだましな方でしょう。 今年は60回目と言うことで「正倉院展・六十回のあゆみ」と言う分厚い目録集も出ていました。これにいつもの日本語版と英語版の目録を併せて買ったらすっかり重くなってしまいました。さっそくですが、英語版目録からクイズです。英語の宝物名から和名を当ててみてください。 A: Aromatic Log B: Ivory Tablet C: Bamboo Shakuhachi Flute with Designs of Flowers, Birds, and Beauties D: Eight-Lobed Bronze Mirror with Mother-of-Pearl Inlay of Flowers and Birds E: Cut Glass Bowl F: Red Sandalwood Sugoroku Game Board with Marquetry Design of Crescent Moons, Flowers and People Riding Birds G: Lacquered Armrest H: Sappanwood-Stained Wood Box with Gold and Silver Painted Design of Flowers, Performers and Parrots I: Gilt Bronze Buddhist Banner (Ban) H: Coconut Vessel with Human Face I: "Rainbow Dragon," A Mummified Ermine さて想像はつきましたか? A: Aromatic Log   アロマセラピー(aromatherapy)のアロマ(香り)にログハウスのログ(丸太)で「香木」のことです。宝物名は『全浅香(ぜんせんこう)』と言い、現代でも使われる「沈香」の一種で長さ一メートルを超す丸太です。とにかく大きいです。銀葉に載せるサイズにだとどれだけ取れることやら私には想像もつきません。 B: Ivory Tablet  アイボリー(象牙)にタブレット(錠剤)といきたいところですがこのタブレットは「銘板、碑(板)」の意味で「象牙製の札」となります。宝物名は『牙牌(げはい)』です。Aの『全浅香』と共に伝わり、表裏に金字で銘記されています。一センチ以上の厚みがあるのですが上部に紐を通す孔(あな)があいているのでやはり札として使われていたのでしょう。 C: Bamboo Shakuhachi Flute with Designs of Flowers, Birds, and Beauties    英名の場合説明的な表現になることが多く、その方がそのものを思い浮かべやすいことがしばしばあります。これもバンブー(竹)とフルートで「花と鳥と佳人が描かれている竹製のフルート」となります。フルートと言っても横笛ではなく竪笛なので、宝物名は『刻彫尺八(こくちょうのしゃくはち)』となります。「彫刻」ではなく「刻彫」となぜ表現するのかは分かりませんが、竹の表面を彫り残して細密な文様(花、鳥、佳人)を浮かび上がらせています。とても優美な雰囲気を醸しだす笛で、今回の宝物の中で一番心惹かれました。この尺八は唐王朝の様式で六孔(表に5、裏に1)なので、現代のもの(五孔)とは系統が違うそうです。いつも聖武天皇の傍らに在ったそうで、天武天皇の時代から引き継がれた箱(※)に収められていたそうです。描かれている佳人はすらりと細身で、則天武后の時代に好まれた美女像だそうです。同じ唐代でも玄宗皇帝の頃は豊満な美女が好まれたのだから流行り廃れの速さは昔も今もあまり変わらないのですね。尚音声ガイドではこの尺八の復元楽器の音色を聞くことができます。 ※『国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)』に記されている『赤漆文欟木御厨子(せきしつぶんかんのおんずし)』のことです。 D: Eight-Lobed Bronze Mirror with Mother-of-Pearl Inlay of Flowers and Birds  lobedは葉の縁に浅い切れ込みが入っているさまを表現する結合語で数字と組み合わせて形容詞になります。この場合はeight-lobedなので「8個の切れ込みのあるがある」となります。ブロンズは通常「青銅」ですがここでは「銅の合金」の意味です。これは銅(70%)に錫(25%)が混ぜられた「白銅」だそうですが、さほど白っぽくはなく銅の色を強く残しいています。mother-of pearlは貝の「真珠層」のことで螺鈿に使われます。inlayは「象嵌(ぞうがん)」のこと。inlayは動詞だと「はめ込む、象嵌する」の意味でリーダーズ英和辞典によると語の成り立ちはin-「中へ」、layはlieの過去形だそうで、「中に横たわった」となります。どうして過去分詞のlainじゃないのかしら。その方が「中に横たえられた」とスンナリ理解できます。過去形だと螺鈿が自ら鏡の白銅面に横たわりに行ったような感じがします。すみません。ちょっと脱線してしまいましたが、英名に戻って「螺鈿で花と鳥の象嵌細工が施された8個の切れ込みのある銅合金製の鏡」となります。宝物名は『平螺鈿背八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう)』です。螺鈿が施されているのは鏡の裏面だから「背」を含んでいる和名の方がこの点は正確だけど、この鏡には角がなく、円を8ヵ所丸く窪ませているので八角よりeight-lobedの表現の方が優れていると思います。鳥は二羽ずつ象嵌されているのですが、どこにあるのか探すのに手間取りました。結局なんとかローブされた(切れ込まれた)部分の内の4ヵ所で見つけることができました。 E: Cut Glass Bowl  これは分かりやすいですよね。「カットガラスのボウル」。ガラス製の切子碗です。外来語のボウル(ボール)は食材を混ぜ合わせる調理器具ですが、正倉院展ではよく見かける単語で、底が曲面の器全般に使われます。これは抹茶碗位の大きさです。宝物名は『白瑠璃碗(はくるりのわん)』。白と言うよりかなり琥珀に近い色合いです。「瑠璃」はガラスのこと。正倉院の宝物は伝来品であり、優れている点の一つに保存状態の良さがあげられます。このガラス碗は西アジアで作られササン朝ペルシャからシルクロードを渡ってきたそうです。ほぼ同じものが安閑天皇陵(大阪府羽曳野市)から出土され東京国立博物館に所蔵されているそうですが、出土品なのでこの正倉院のガラス碗のような輝きは無いそうです。参考品として西アジアで出土した同様のガラス碗が展示されていましたが、土が深く染み込みガラス面はほとんど見えませんでした。 F: Red Sandalwood Sugoroku Game Board with Marquetry Design of Crescent Moons, Flowers and People Riding Birds  sandalwoodは「白檀」のこと。red sandalwoodで「紫檀」になります。「紫檀の『すごろく』ゲーム盤」ですね。例によってwith以下に説明があってmarquetryは「象嵌、はめ込み細工」の意味。Dで出てきたinlayが螺鈿(貝の真珠層)を材料とするのと使い分けられているようで、こちらは象牙や鹿角・水牛角が施されています。crescentはクロワッサン、「三日月」のことですよね。それで「三日月や花や鳥に乗った人の意匠が施された紫檀の『すごろく』ゲーム盤」となります。宝物名は『紫檀木画双六局(したんもくがのすごろくきょく)』です。三日月や花や鳥に乗った人は脚付き盤の側面わずか数センチ幅のところに象嵌されています。象嵌は精密なもので、目録の写真を見ると特に鳥に乗った人は目や眉もくっきり描かれていて驚かされます。 G: Lacquered Armrest  lacquerは「ラッカー、漆」のことでlacqueredで「漆塗りの」になります。armrestは「ひじ掛け」、「脇息」とも言うけれど、宝物名は『漆挟軾(うるしのきょうそく)』となっています。同音だから、「挟軾」は「脇息」の古い表現なのかしら。これはとても大きなひじ掛けで、シンプルだけど力強さを感じさせます。漆の状態がとてもよくて、このまま家具屋さんで新品として売れそうな位です。 H: Sappanwood-Stained Wood Box with Gold and Silver Painted Design of Flowers, Performers and Parrots  sappanwoodは「蘇芳(すおう)」のこと。stainは染めることだからsappanwood-stainedで「蘇芳に染められた」。「花や演者やオウムの文様が金銀で意匠された蘇芳染めの木製の箱」となります。宝物名は『蘇芳地金銀絵箱(すおうじきんぎんえのはこ)』です。桜材を蘇芳で染め、金泥銀泥で文様を線描しています。音声ガイドによると、蓋の表中央上部に衣を翻して踊る童子、その下左右に篳篥(ひちりき)や鼓(つづみ)を奏でる童子が描かれていると言うのですがなかなか見極められません。真正面からみてやっと宙を舞う衣の衣文がわかり、中央の童子は見つけられたものの、左右の童子はおぼろげに顔の輪郭を見分けるのがやっとでした。目録の写真だと向かって右手の童子が鼓を打ち、左手の童子が篳篥をふく姿がはっきりと見えます。よほど集光度の良いレンズを持っていかないとこうは見えそうにありません。 I: Gilt Bronze Buddhist Banner (Ban)  giltは「金箔をかぶせた、金色に塗った」。バナーは最近ではもっぱらウェブサイトで見かける横長の広告のことですが、もともとは「旗、幟(のぼり)」の意味。「旗」と言えばまずflagがでてくるのですが、違いがはっきりしません。感覚的にはflagは国旗のような長方形のもの、bannerは軍旗のように二倍以上横長または縦長なものを思い浮かべるのですがどんなものでしょう? とりあえずここは「金色の銅合金製の幡(ばん)」としましょう。「幡」は仏堂の内外にかけて使用する仏具の一種なので、buddhist bannerに当てました。宝物名は『金銅幡(こんどうのばん)』です。通常幡は布製なので、こういった金属の幡はとても珍しいものです。この幡は金属製だけれど透かし彫りがとても優美な線を描いていて、とても惹かれました。銅版は坪(つぼ)と言い、それぞれ異なる文様が描かれており、坪同士は蝶番でつながれています。今回の目録の表紙にあしらわれています。右手に幡頭と第一坪・第二坪と第三坪の途中まで。左手に第二坪の途中から第三坪と第四坪と鈴からなる幡脚が写っています。第一坪は花唐草文、第二坪は亀甲文(六角形)、第三坪は中央に花卉(かき:草花のこと)文、その上下に直線と花文の組み合わせ、第四坪は連珠の飾りと鳥のつがいの文様。坪のつなぎ目には葉の形の飾りと全体に鈴が飾られています。現代でも洒落た壁飾りとしてそのまま使えそうです。 H: Coconut Vessel with Human Face  これは「人の顔をした椰子の瓶」で宝物名は『椰子実(やしのみ)』です。ココヤシの果殻に人面を施した容器です。ムンクの『叫び』を丸顔にしたような、ちょっと困ったような、でもどこかユーモラスな表情です。結構人気のある宝物で、何度か出品され、以前にも見たことがあります。遅くとも平安時代の終わり頃には正倉院にあったそうですが、当時の人は遠い南の島から流れてきたことを知っていたのでしょうか? I: "Rainbow Dragon," A Mummified Ermine  これは「虹の龍、実はミイラ化した貂(てん)」。マミー(mummy)はミイラ、ermineはイタチ科の小動物のことでここは「貂」のこと。宝物名は『虹龍(こうりゅう)、貂のミイラ』骨格が良く残っており、龍を想像させたらしい。この宝物のある宝庫を開けると必ず雨が降るという伝承からこの名が付いたそうです。正倉院の宝物って本当にいろんなものがあるでしょう。 今年の正倉院展は11月10日(月)まで。興味のある方はどうぞお早めに。              【追記】  奈良生まれのnararaさんの子供ころの正倉院展の思い出はこちらです。

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