アンニュイな午後は・・・

2008/02/12(火)11:50

食って食って喰いまくれ

本のオハナシ(4)

 オススメの本シリーズ(いつシリーズにしたんだ??)今回は辺見庸氏『もの食う人々』です。  この本もお正月休みに読んだ上、旦那サマに勧めてしまったので、今手元にありません><  なので、うろ覚えの感想になってしいます・・・ムセキニンデゴメン  辺見庸氏は、元共同通信記者の芥川賞作家です。  元記者だけあって、あたし的にはルポルタージュの方がおもしろくて好きです。この人の文章は、ルポルタージュですら表現が文学的できれいなところが特徴。“知識人”という言葉がこれほどぴったりな人もいないだろうなぁ、と思ってしまいます。  1999年に可決された「周辺事態法」をきっかけに、最近では憲法9条を守る意義や、日本政府や米軍の問題点、テロとどう闘うべきかの講演をされています。  あたしも講演を聞いたことがあるのですが、講演のときにイラクから持ち帰ったクラスター爆弾の破片を実際にさわらせてくれます。  話はそれますが・・・  クラスター爆弾の破片は・・・画像を撮っておけばよかったのですが・・・鉛のような素材で、裏側にダイヤ型の突起が一面につけられています。この突起は上側が広くなっており、繊維などが引っかかりやすく、また取りづらくなっています。これが上空から銃弾以上の早さで人間の体に突き刺さり、体内で肉に食い込みます。一度体内に入ったら、二度と取れないそうです。こんな恐ろしい物が大人子ども問わず毎日落とされている現実を少しだけ実感しました。  話を戻しますw  そんな体を張った取材を信条としている辺見庸氏の「もの食う人々」、とにかく食べまくる本です。  初っぱなのバングラディシュのスラムで残飯を食べることから始まるこの旅。食を通して、そこにすむ人たちの生活が見えてきます。  本と併せてその国の歴史を見ていくと、バングラディシュやウガンダ、アンゴラなどのアジア、アフリカ地域での飢えは、確実に戦争によるものであることがわかります。これらの国は他国(もちろんアメリカ、ソ連、イギリスとかね)の干渉による内戦があり、国民が放り出されています。特にバングラディシュの場合は、スラムと富裕層との格差が大きく、残飯を出す側とそれを食する側に大きく別れてしまっています。こういった国の背景も書き入れてもらえるとぐっと身近に考えられるのではないのかなぁ、と思いながら読みました。  ベトナムでゆったりとフォーを食べるくだりは、もとハノイ支局長だった辺見氏のベトナムへの愛情が滲み出ています。フォーを食べる時間が短縮されたことから労働の過密化を危惧するあたりは、日本のサラリーマンへの警鐘とも取れました。  辺見氏、ヨーロッパでも食べまくります。  ソ連の軍港、ウラジオストックで食を通して海軍の虐めと汚職問題を告発し、ドイツでは統合されたばかりの刑務所で囚人と食事をします。東ドイツ、ソ連の相次ぐ崩壊による人々の生活の変化を最も影響の出やすい軍隊や刑務所で見るあたりは辺見氏のバイタリティーだけでなく、飽くなき好奇心にも驚くばかりです。  ただ、この本が出版されたのが1994年。東欧諸国がこぞって破綻し、資本主義への幻想が大きい時期の取材のため、東欧に関しては今現在の状況を追加取材してくれたらいいのになぁ、なんて胃勝手なことを思ってしまいましたw  そして・・・  あのチェルノブイリ周辺に住む人々も取材しています。あたしが読んだ感じでは、チェルノブイリ周辺の住民は食だけでなく、なぜ禁止区域に生活しているのか、食材はどうやって調達しているのかなど、他よりも一歩踏み込んで取材しているように感じます。  「森へ行けばキノコも木の実も果物も魚も採れる。何の心配もない。あたしは元気だ。放射能なんか怖くない」避難所での生活に対応できず、一人で元の家に帰ってきている老人が多数います。彼らは安全だと自分に言い聞かせながら毎日生活しています。命を削ってでも生まれ育った森に住みたい・・・チェルノブイリ周辺が戦場のような焼け野原ではなく、何もかも同じように残っている分、切なく感じました。  この本を読んでいて思ったことは  ひとつは国民の食は政府の政策によって大きく左右されるということ。  もう一つは、日本人の飽食の下には多数の飢餓があり、日本人はもっと食について考える必要があるということ。  そして、  日本は確実にバングラディシュのような格差社会になりつつあること。  ということです。  食料自給率が40%を切った今、もっと農業を見直す必要があると思います。規制緩和による企業の大型農園構想なんて、第2の中国野菜を作り出すだけです。春闘で多少高くても国産品を買えるだけの給料を求めること、選挙で金持ち寄りの政治家を落とすこと、これだって食の安全を守るための方法の1つだと思います。  昔、カンボジアで24時間テレビのスタッフが教えてくれたことが、未だに耳に残っています。  「本来、南国に飢えはありません。南国が飢えるとき、それは戦争があるときです。」  あたしたちの食が、政治と密接に関係していることを、この言葉が示唆しています。今改めて考えないといけないことかもしれませんね。  この本を日本人への警告書として読むか、紀行文として読むか・・・さまざまな読み方ができると思います。ただ、“食”というものに関しての見方が変わることは確かです。  表現も情緒豊かな優れた本だと思います。あたしのオススメの1冊です☆

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