だだもれ堂筆記

2011/11/19(土)00:18

サブタイトルがかっくいい『アナバシス』

本(81)

【送料無料】アナバシス価格:945円(税込、送料別) 岩波文庫って他の出版社じゃ出してくれないような古典とか名作系を多数出してくれるのはうれしいんだけど、定番として売れている本じゃない限りいったん在庫切れになると次の重版がいつになるか分からないというなかなかスリリングな出し方をしてくれる。 という訳で、これも定番として馬鹿売れするような本じゃないのは間違いなく、在庫がなくなったら重版しない恐れがあるのでさっさと購入した。 本の内容は、ソクラテスの弟子クセノフォン自身がペルシア王弟キュロス率いる反乱軍の傭兵として従軍した際の記録。というかほとんど全編が、緒戦の段階であっさりキュロスが殺されたために敵地バビロンに取り残されてしまった1万数千人のギリシア人傭兵部隊が、いかに敵地を撤退しギリシアへ帰ったかという記録。 この撤退行の最初で多くのギリシア軍司令官がペルシア側の謀略で殺された後、事実上指揮を執った当時30になるかならないか(!)のクセノフォンは、敵味方の裏切りや謀略の可能性を片目で見つつも相手と駆け引きし言葉で説得し演説し戦術を練って実行しあるいは強引に説き伏せ、時にぐだぐだになるギリシア軍の尻を叩いてとにかくギリシアを目指す。 本人が書いているのだから多分に自画自賛的でかつ都合の良いところ取りをしているのは当然ではあるが、とにかく2400年も前に理を通すためにあたう限りの言葉を尽くして話し合い説得するというやり方をギリシア人が、少なくともクセノフォンに関しては(基本的には)貫いていたというのがすごい。さすがソクラテスの弟子ということか。そして人のありようが今とほとんど同じであることも。 文章そのものは400年後のカエサルの『ガリア戦記』の方が躍動感もあってずっと良いのだが、時々演説やら説得やらの場面はあるものの基本的に素朴というか淡々と記していく感じがそれはそれで良い。撤退記という結構悲惨な状況をそんなに悲惨じゃないような気分にしてくれる何だか不思議な記述なのだった。

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