2015/07/01(水)20:30
プラメモの物語構成で特に優れている点を語る
『プラスティック・メモリーズ』を視聴完了。
最近のオリジナルアニメは質の良いものが多い気がして嬉しいんだけど、その中でもこの「プラメモ」は特に良い…。
まずキャラクターが非常に魅力的で……その、ふふ……。
出来ることなら自転車で夜の街に駆け出しながら「アイラちゃん!!アイラちゃん!!あああああ!!」と叫びたい。一晩中。そんな気持ちになった。
古今東西あらゆる創作に言えることだけど、まず登場人物が魅力的でなければ始まらない。
ヒーローであれば格好よく。ヒロインであれば魅力的に。
その点、プラメモはヒロインであるアイラちゃんの魅力を限りなく引き出すことに成功している。
ああ、アイラちゃん……あなたはどうしてアイラちゃんなのか?
そう、アイラちゃんがアイラちゃんである所以は、全て彼女がギフティア(アンドロイド)であることに由来している。
まず、ギフティアってなんだよ?
ギフティアとは、高度な人工知能を搭載したアンドロイドであり、物語中の人間社会に深く溶け込んでおり、(少なくとも視聴者には)人間とギフティアの見分けはつかない…。
例えば食事をしたり、ケガをしたり、涙を流したり、恋をしたり。おしっこしたり。
人間に交じってオフィスで仕事をし、親を失った子供の親代わりになり養育し、子を失った老婆の孫代わりとなり慰める。
ぶっちゃけ人間いらないじゃん。全部ギフティアでいいんじゃないかな……とお思いだろうがそうはいかない。
ギフティアには「耐用年数」という概念があり、その人工知能は9年しかもたない。
9年間稼働したギフティアは記憶を全て消されて初期化、回収されなければならない。
さもなくば数時間足らずで人格は崩壊し、暴走して人を襲うターミネーターとなる……ってなんじゃそりゃ。
まあ……つまり、ギフティアというのは「所有者とのつらい別れを約束された存在」なんだよ。
そんなギフティアであるアイラちゃんが、所有者であるツカサくんと恋に落ちる……さあどうなる?
どうなるんだよお!?
頼む、頼むどうか、二人に幸せな結末を。
俺の愛しいアイラちゃんに笑顔と未来を。
なんて祈りながら一気に見たニコニコ動画全13話。
実際にどうなったかは…………どうでもいいんだ、もう。
重要なことじゃない。
さて、ツカサとアイラちゃんはパートナーとなって仕事をする。
その仕事内容はギフティアの回収……っておいいいいいい!!
既に述べたようにギフティアにも人間に等しく心がある。
ギフティアであるアイラちゃんにギフティアの回収をさせる無神経さたるや……そのアイラちゃんの心境たるや……いやいいや、もう。
で、いろいろなギフティアを回収する中で、ツカサとアイラちゃんはいろいろなことを学んでいくんだな。
そして、やがて二人は恋人同士に。
そしてそして物語の最後、回収期限の迫ったアイラちゃんを前にして、恋人であるツカサは選択を迫られる……。
でも結局、その選択とは、物語中で何度も見せられている、回収対象のギフティアとオーナーの葛藤の再現に過ぎないわけだな。
なぜなら、彼女は何も特別なことはない、ただの耐用年数の迫ったギフティアだから。
たとえ、ツカサが。
回収を受け入れ、アイラを最後まで看取っても。
回収を拒み、最後の一瞬まで逃走を図っても。
その結果、アイラがワンダラーと化してしまっても。
何も特別なことはない。
どれも全て、作中で回収されてきたギフティアたちと同じ。
ヒロインであるアイラの結末と、モブであるギフティアたちの結末が等価。
ここに、この作品の面白さがある。
ギフティアという設定を生かして、ヒロインが辿るであろう結末を事前に陳列棚に並べて見せることで、ヒロインの死を一種、陳腐化してる。
そんなことをして何の意味があるかって?
特権を奪われたヒロインと主人公の別離への葛藤が、より切なさを増して映えるんだよ!!!
思い出してほしい、11話でのアイラちゃんのセリフを。
デートの帰り道、ツカサと二人で夜景を眺めながら、アイラちゃんはこう呟いた。
「あの光のなかに、いろんな人が、いつも通りに過ごしてるのかな?」
「わたしも、その中の一人かな?」
このセリフは非常に象徴的で、物語の中におけるアイラちゃんの立ち位置と、同時に彼女の願いをも示している。
アイラちゃんはただのふつうのギフティアとして、何一つ変わりのないまま回収までの時間を過ごすのだし、彼女もそれを望んでいる、ということに違いないのだ。
だから奇跡は起きないし、奇跡はいらないのだ。
ああ……切ない。
切なすぎるよアイラちゃん……。
SFという舞台を巧みに利用し、この美しい構図を見事に演出した、プラメモという作品の底力には心底感心するばかり。
ああ、アイラちゃん。
悲しい……もうずっと彼女のことばかり考える日々だ。
というわけでプラメモ、非常におすすめ。
ニコニコ動画は、単品しかなくてちょっと高いので、レンタルを待ったほうがいいとは思いますが、皆さんにぜひ見てほしい名作です。
ちなみに、もしも俺がツカサなら、アイラを再利用して傍に置くだろうと思う。
意味がないとわかっていても、あまりにも悔しすぎて、きっとそうせざるを得ないだろう。