昼下がりの迷宮~

2010/09/19(日)12:48

倉知淳 『猫丸先輩の推測』

本の話(日本の作家・か行)(46)

あと少しで読み終わりそうです…倉知淳『猫丸先輩の推測』 『病気、至急連絡されたし』 手を替え品を替え、毎夜届けられる不審な電報、花見の場所取りを命じられた孤独な新入社員を襲う数々の理不尽な試練、商店街起死回生の大イベントに忍びよる妨害工作の影……。 年齢不詳、神出鬼没、つかみどころのないほのぼの系、猫丸先輩の鋭い推理が、すべてを明らかにする……? 『日曜の夜は出たくない』以来、倉知氏のメイン・キャラクターである猫丸先輩登場の短編集です。 どのストーリーも前半は事件に巻き込まれた当事者の独白。ですからどれも主人公が違うのですが、それぞれの性格がにじみ出るような筆で描かれます。 「事件」とは書きましたが、血なまぐさいものは一つもなく、「弱ったなぁ」「参ったなぁ」という程度のもの。それが、ひょんなところで猫丸先輩に出会い、「この男はいったい…」とさして信頼もせぬままに事情を語るうちに…というストーリーになっています。 おそらく、猫丸先輩と出会わなくても、どの主人公も昨日までと同じような毎日を、困りながらも積み重ねていくでしょう。それが猫丸先輩の「推測」に耳を傾けて、霧が晴れるように合点することになるのです。 誰の身の回りにも、わけの分からない困りごとは一つ二つあるものです。でも、命に別状あるわけでないと、なんとなくもやもやしながらも日常のことにまぎれて、迷惑を感じながらも生活してしまいそうです。 猫丸先輩の語るのは、真実を究明する推理ではなくて、「こうだったりするかも」という「推測」です。事件は解決に至りません。でも、どの主人公も、章の終わりには晴れ晴れとした気持ちになっています。 一緒に私まで、明日の生活になんだか希望がわいてきそうになります。 事件の性質ゆえか、それとも講談社版の可愛いイラストゆえか、これまで持っていた猫丸先輩のどこか怖いイメージがなくなりました。買い物の途中にでも出会ってみたい気がしています。

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